米国の新自由主義指向は事実なのか?2009/08/26

医療改革に関するさまざまな米国民の意見を読んでいると、マスコミ報道でよく伝えられる米国の新自由主義指向は事実なのか、大多数の米国民がそういう指向を持っているのか、という疑問が湧いてくる。産経の古森義久氏の記事も今回の医療改革についてその方向で記事を書き、こう結論づけている。

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 しかし4千万人以上の国民が医療保険のない米国で国民多数派がなぜ皆保険に難色を示すのだろうか。最大の理由はやはり、米国に根強い「政府への依存」や「政府による管理」への国民の伝統的な反発のせいだろう。今年1月のピュー・リサーチ・センターの世論調査では経済の大不況にもかかわらずなお、「政府は国民の経済を傷つける」と答えたのが50%、「政府は国民の経済を助ける」と答えたのは39%という結果が出た。「政府を信じられる」という人が約20%だったともいう。

 国民皆医療保険というのはまさに「大きな政府」への依存である。オバマ大統領の人気も、米国民のその「大きな政府」への反発を崩すところまでは及ばなかったということだろう。(ワシントン 古森義久)
【緯度経度】医療保険改革 オバマ支持を減らす<br>
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/292667/
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しかし、ブログやメディアなどに寄せられている米国民のコメントを読むと、この意見はまるで事実と違う。この古森氏の記事は意図的で悪質なプロパガンダである。そもそも古森氏が紹介している「今年1月のピュー・リサーチ・センターの世論調査」と今回の医療改革とどのような関係があるのだろうか。「Citizen Action of New York」というグループが伝えているような、医療改革に直接関係する世論調査をなぜ古森氏は伝えないのだろうか。

すでに紹介したように、このグループの「Public Opinion and the Public Option」(URLは後記)での報告によれば、なんとどの世論調査でも、米国民の7割前後は、古森氏が「オバマ大統領の人気も、米国民のその大きな政府への反発を崩すところまでは及ばなかったということだろう。」と書く、その「大きな政府」を意味する「Public Option」付きの国民皆保険制度を支持しているではないか。

さらに、このグループの「Public Opinion and the Public Option」のページには、民間医療保険だけの制度に対する国民の拒否とは別に、政府と民間との間の市場での競争について、目からウロコの調査分析結果が書かれている。

「地方回答者は競争を信条としている。地方回答者によれば、民間保険会社が本当に政府よりも効率的であるならば、公的保険制度オプションと実際に競合しても問題はないだろう。この見方は都市部よりも地方で根強い(地方62%に対して都市部57%)。公的医療保険制度が民間保険制度に対して不当に有利になるとする回答は地方でわずか23%だった。(Rural voters believe in competition. According to these voters, if private insurers are really more efficient than government, they won’t have trouble competing effectively with a public health plan option. In rural areas, voters hold this view more strongly (62%) than in cities (57%). Only 23% of rural voters say a public health insurance plan will have an unfair advantage over private plans.)

医療保険改革の議論から判断する限り、米国が新自由主義、「小さな政府」に染まっているかのような報道は、米国の一部勢力がマスコミなどを通じて意図的に流させているプロパガンダではないろうか。そして、もちろん、その意を受けた勢力は日本にも存在する。産経の古森氏は、そうした勢力のお仲間?

Public Opinion and the Public Option
http://citizenactionny.org/2009/08/public-opinion-and-the-public-option/867

米国の新自由主義指向は事実なのか? - お笑い古森記事2009/08/26

産経の古森義久という人物はどうも頭の程度を疑いたくなる。すでに紹介しているが、この記事を読んで、余りにも事実と違いすぎているんで、頭休めに参照しているところを探ってみると、

【緯度経度】医療保険改革 オバマ支持を減らす
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/292667/

例えば、彼が世論調査で紹介しているラスムセン社、NBCテレビ。ここって、調査会社とかテレビ局でもエライ下劣な類のところじゃないの。NBCのトップページなんて、マフィア運営の隠れエロサイトかと思っちゃうよ。

ラスムセン
75% Worried That Gitmo Closing Will Set Dangerous Terrorists Free
(ガンタナモを閉鎖すると危険なテロリストを自由にすることになると75%の人が懸念)
http://www.rasmussenreports.com/public_content/politics/general_politics/august_2009/75_worried_that_gitmo_closing_will_set_dangerous_terrorists_free

NBCテレビ
http://www.nbc.com/

それに、もう一つ紹介されているピューリサーチ。古森さんは記事で、こんなこと書いているんだけど

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今年1月のピュー・リサーチ・センターの世論調査では経済の大不況にもかかわらずなお、「政府は国民の経済を傷つける」と答えたのが50%、「政府は国民の経済を助ける」と答えたのは39%という結果が出た。「政府を信じられる」という人が約20%だったともいう。
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今年1月にビュー・リサーチが行った世論調査は新しい順に次の4件。この調査の中に「政府は国民の経済を傷つける」とか、「政府は国民の経済を助ける」とか、「政府を信じられる」なんて記述どこにあるんだろうか?政府だから当然「government」が使われているはずだけど、一部「government」はあるにしても、古森さんの書いていることに該当する項目、文章は見つからない。

・January 22, 2009
Economy, Jobs Trump All Other Policy Priorities In 2009
Environment, Immigration, Health Care Slip Down the List
・January 15, 2009
Strong Confidence in Obama - Country Seen As Less Politically Divided
America's Pre-Inauguration Mood
・January 13, 2009
Modest Backing For Israel in Gaza Crisis
No Desire for Greater U.S. Role in Resolving Conflict
・January 7, 2009
Gains Seen On Minority Discrimination - But Little Else
Americans Assess Progress on National Problems

2009 Survey Reports
http://people-press.org/reports/?year=2009

もし、古森記事をまともに取り上げているところがあったら、笑ってあげた方がいいんでなかろうか。おまけにあんなデタラメ記事を書いて、恥ずかしげもなく署名入りだもんなあ。産経もよくもこんなのを雇っている。それとも産経編集部は、どうせ自分とこの読者なんてアホで、紹介されている情報を当たってみるなんて能がないなんて考えているんだろうか。