二人の米国民が見たオバマの戦争 22009/12/12

現地時間12月1日、ウェスト・ポイント陸軍士官学校でのオバマのアフガニスタン増派演説後のマスコミ報道を見ると、あたかもオバマが決意を新たに大幅増派に踏み切ったように見える。しかし、アフガニスタンで現実に起きていることを時間とともに追っていくと、今回の増派がブッシュから引き継がれ、戦線をさらに拡大する方向での政策の一環だったという見方が成り立つ。単に国防長官がラムズフェルドからゲーツに変わり、オバマ政権になってもゲーツが続投しているという事実だけではない。そこには、マスコミと一体となった米軍の大きな戦略がある。リベラルのトム・エンゲルハルトさんは、この当たりのことを次のように表現している。

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現実には、民間および諜報の人間とともに米軍は、ブッシュ政権末期以来、ほぼ途絶えることのないサージ状態にある。不幸なことに、このことに関する情報はあり、しばしば優れた報告になっているのだが、戦争の特定面に関する夥しい数のニュース記事の中に散らばってしまっている。そのすべてを把握するには、メディアに載る記事を見逃さず、組み立てていかなければならない。

Tomgram: State of Surge, Afghanistan
http://tomdispatch.com/post/175176/tomgram%3A__state_of_surge%2C_afghanistan/
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エンゲルハルトさんによれば、アフガニスタンでのサージは9つの前線で起こり、一貫して続いている。9つの前線とは?エンゲルハルトさんの紹介するところを簡単にまとめてみよう。

1.米兵のサージ:3万人の新たな増派というが、これは実際にはオバマの増派第2弾である。2009年1月に政権に就いたとき、アフガニスタンの米兵数は32,000人ちょび。その後この3月に21,000人が増派され、演説時点では、68,000~70,000人になっていた。それでも数が合わない人数は、ブッシュ時代のものやオバマがホワイトハウスの承認・発表なしに増派してもよいと許可した人数で構成される。

2.傭兵のサージ:軍事が民営化、私有化されている米国の状況では、実際のところ米軍の規模を話すだけでは意味をなさない。兵站業務、基地保安業務などに非常に多くの傭兵が働いている。大部分はペンタゴンから給料が支払われているが、こうした傭兵のサージを誰が担当しているのかの知るすべはない。増派の検討にさいして、オバマがこうした傭兵を検討対象にしたのかどうかも分からない。メディアでもほとんど触れられることはない。ただし、演説後のウォールストリートジャーナル記事によれば、6月末から9月末にかけて傭兵は約40%増加して、合計で104,101人になったとされる。多くはDynCorp InternationalやFluorなどで雇われた現地アフガン人とのこと。

3.民兵のサージ。米軍特殊部隊が、イラクでの覚醒運動を真似てタリバンに対抗する民兵を育てる試験的なミニサージプログラムを実施している。これらの民兵にカネを払って村々に「監視組織」みたいなものを結成させる。

4.民間人のサージ:外交官や農業・教育・医療、法律などの専門家のミニサージ。これはパキスタンでも行われており、イスラマバードに予定されている巨大大使館施設の建設と同期している。

5.CIAと特殊部隊のサージ:オバマは演説で一言も触れなかったが、オバマ就任以来、ドローンと呼ばれる無人機による爆撃が増加し、パキスタンの部族地域への増加の許可を出している。また、部族地域以外へのドローン爆撃も計画されている。

パキスタンのカラチにある秘密基地に米軍秘密作戦部隊と戦争請負業者Xe(前ブラックウォーター)の暗殺部隊があり、タリバンとアルカイーダの暗殺に従事している。パキスタンでの活動は秘密裏で裏予算が使われており、実態を知ることはほとんど不可能かもしれない。

6.基地建設のサージ:12月1日の演説のかなり前にアフガニスタンでは基地建設のサージがあった。カンダハールの米軍空軍基地は拡大する一方で、「新興都市」の様相を呈している。加えて南部の至る所に前線基地や前哨基地も作られている。ニック・タースの11月初旬の報告によれば、「アフガニスタンは米軍の建設ラッシュであり、これを見ると、ワシントンがどんなことを決定しようが、米軍はほぼ永久にアフガニスタンに駐留する計画のようだ。」とのこと。

7.訓練のサージ:NATO軍と米軍によってこちらのサージも行われているが、周知のとおり、成果はかなり芳しくない。昨年訓練した兵士のうちの25%は逃げ出し戻ってこない。警察官の方も給料が悪く、腐敗していて、薬漬け。兵士数は、現在の94,000人(実際には4万人ちょび程度の可能性)から来年秋までに164,000人、来年末までに240,000人にする計画。

8.戦費のサージ:ペンタゴンが最も透明性に欠ける組織なので、戦費のサージは割り出すのが難しい。確実に言えることは、オバマの300億ドルという数字は、実際の戦費サージという点ではほとんど根拠がないということ。この数字で米兵、傭兵、基地などをカバーできることはありえない。兵士と警官の訓練だけでも、これまでにすでに150億ドル、100億ドル超を費やしている。

議会の公聴会でCentcom司令官のペトラウスは年間100億ドルと言っているが、アフガニスタンのような貧乏国がどうやったら40万の部隊を維持できるのか想像してみるといい。カルザイは、そのような規模の軍隊に給料を払えるようになるには15年から20年かかると言っている。

9.反撤退のサージ:ウェスト・ポイントの演説でのオバマの2011年7月までの撤退という発言に対して、日曜の朝のトークショーでは一斉にそのオバマの発言を否定する、打ち消す発言が流された。代表的なのは、当のオバマ政権の一員のゲーツ国防長官や国家安全保障担当大統領補佐官の発言、つまり、「2011年7月」というのは長期にわたる過程の「終わり」ではなく「単なる始まり」。

核密約だけではない日本外交のガン2009/12/12

掲示板の阿修羅でも取り上げられていたが、「反戦な家づくり」というブログを出している建築士の方が米軍の普天間基地移設問題について興味深い資料を紹介している。

「普天間基地はグアムに移転するようだ」 from 「反戦な家づくり」
http://sensouhantai.blog25.fc2.com/blog-entry-803.html

この記事では、ブログの表題がそのまま注目されているのだが、それ以上に俺が驚いたのは、紹介されている宜野湾市の伊波洋一市長署名入りの「普天間基地のグアム移転の可能性について」という11月26日付けの公式資料である。その中にこんな記述がある。

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2.なぜ、司令部だけがグアムに行くとされてきたのか。

理由は、1996 年のSACO合意だった海兵隊ヘリ部隊の辺野古移転のイメージを基にした国会審議での答弁や、米国政府関係者の意図的な「発言」だけが報道され、2006 年5 月の「再編実施のための日米ロードマップ」合意に基づいて太平洋米軍司令部が策定した「グアム統合軍事開発計画」と実行されている同計画に基づく環境影響評価などの「事実」は報道もされず、検証もされなかったことによる。

日本政府は、意図的に同計画について米国に照会することをせず、日米両政府は「グアム統合軍事開発計画」について「正式な決定ではない」として詳細は未定と押し通してきた。その結果、国会での答弁や日米政府関係者の発言は、「グアム統合軍事開発計画」について踏み込まず、2005 年10 月の「日米同盟:未来のための変革と再編」の合意の時点に固定されたままになった。結果的に、「発言や答弁」の報道に終始するマスコミの報道も同様となり、現在進行している「事実」は、国会議員にも政府関係者にも、国民にも共有されていない。

「普天間基地のグアム移転の可能性について」
http://www.city.ginowan.okinawa.jp/DAT/LIB/WEB/1/091126_mayor_5.pdf
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これを読んで俺は、当然(少なくとも俺にとっては)、外務省とか防衛省に米軍の再編計画に関する資料があるのかと思っていた。それに基づいてマスコミは報道しているのかと思っていた。なぜなら、そうした具体的な計画を知らずに辺野古への移転が必要とか、そんなことは議論のしようがないからだ。前提がないものを議論のしようがない。しかし、見落としていない限り、外務省にも防衛省にも、その種の米軍再編に関する具体的な資料はどこを探してもないのだ。

そうなると例えば現在マスコミとかがさかんに報道しているように、合意を守って辺野古に基地を新設したとして、米国が建設途中でやっぱりいりません、あるいは一年後にその基地は不要になりましたって言い出すことことだってあり得るわけだ。単に期限とか合意とか言う前に、そもそも宜野湾市の資料で指摘されているように、米軍の再編計画、グアム移転計画の具体的な内容を知ってから、移転の問題を話し合ったって遅くはないだろう。というより、具体的な内容を知らないで、移転とか予算の話をする方が間違っている。