一米国民が見た米大統領の「降服」 22009/12/06

リベラルと思われるトム・エンゲルハルトさんの「降服」まではいかないが、今回のオバマ演説については、元グリーンベレーで情報将校だったパトリック・ラングさんもまったく同じ見方をしている、「将軍たちの全面勝利」。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
92日間の「討議」に続き、米陸軍士官候補生とわずかな人数のブルーの征服の士官学校教職員・将校、閣僚の前で奇妙な演出の下で行われたれたウェスト・ポイントのアイゼンハワー・ホールでのオバマ演説。
・・・・・
今朝(演説翌日の2日の朝)、ムレン提督、国防長官ゲーツおよび国務長官クリントンは上院に赴き、軍事委員会でオバマの立場を説明した。マケイン上院議員の質問を受け、彼らはアフガニスタンからの撤退は、昨晩の発表を生んだのと同じ手続きに基づくと発言した。言い替えれば、彼らは次の大統領選挙前の撤退を考えていない。
・・・・・
アフガン戦争は米軍がアフガニスタンで戦争をしていること自体が目的になっている。終わりのない戦争になった。アーメン。

The generals won - everything.
http://turcopolier.typepad.com/sic_semper_tyrannis/2009/12/the-generals-won-everything.html
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

なぜ、ラングさん言うような結論が出るかというと、撤退するかどうかというのは、ブッシュとチェイニーの時と同じ、現場(現地司令官、責任者)の判断に基づくとなっているからだ。だから、オバマがいつ撤退とか演説で言おうが関係ない。

米軍経験が長く自称保守のラングさんが、リベラルと思われるトム・エンゲルハルトさんとまったく同じ意見というのは、異様な感じを受ける。特に「アフガン戦争は米軍がアフガニスタンで戦争をしていること自体が目的になっている。終わりのない戦争になった。アーメン。」は意味深で、原文では次のようになっている。

「This has become a self-licking ice cream cone. War without end, amen.」

「self-licking」は俺も初めて目にする言葉だが、何と言ったらいいだろう。「大した役にたたないのだが、ただ自己が存在する目的のためだけに存在する」というか。一番ピッタリするのは、日本の官僚がつくる独立行政法人とかそんなのだろうか。別に社会の役に立つわけではないのだが、官僚にとってはその存在そのものに意味があるというか、そんな感じだろうか。つまり、米軍の将軍たちにとって、アフガン戦争自体が自分たちの存在を正当化するための道具になってしまっているという状態である。

二人の書いたものを読むと、米国全体が異様な空気に包まれているのを感じる。何が異様なのか、時間が許す限り、掘り下げていってみたい。俺自身も、ウェスト・ポイント、陸軍士官学校でのオバマ演説は、演説内容以前に、その舞台設定の一点でも象徴的な出来事だったと感じる。

一米国民が見た米大統領の「降服」 32009/12/08

アフガニスタン増派に関する、ウェスト・ポイント士官学校における12月1日のオバマ演説は、オバマの軍部への屈服の象徴性という点で特筆すべき事柄だった。しかし、オバマの屈服は、選挙公約とは裏腹のこれまでの現実にもずっと現れていた。トム・エンゲルハルトさんも、そのことを前に紹介したコラムの中でハッキリと指摘している。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
実際、これらのはっきしない(オバマなどが口にしている)撤退期限を信頼する根拠は何もない。詰まるところ、ガンタナモ刑務所を1年後に閉鎖すると明確に発表したのに、その発表は今や公式に流れたし、CIAおよび軍に関する公文書から数百万ページに上る歴史文書を2009年末に公開するという明確な太陽政策も公式に延期され、恐らくは数年後になるだろう。そして、イラクからの米軍戦闘部隊の撤退、それに続く米軍の完全撤退も、今やずれ込む可能性がある。

アフガニスタンの決着をつける?大統領が頭を下げた現場司令官の計画、これまでアフガン戦争を拡大してきた政権、また考えられる将来に米国がアフガニスタンを離れることはないというパキスタンに対する内密の再確認に基づけば、この戦争こそが仕事のすべてであり、終わりはなさそうである。どのような美辞麗句があろうと、これこそが火曜夜のオバマ降服演説の核心だった。

Tomgram: Meet the Commanded-in-Chief
http://tomdispatch.com/post/175172/tomgram%3A__meet_the_commanded-in-chief/
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オバマが選挙中に話していたことは、単に選挙に勝つための方便だったのだろうか?それとも、本当にそうしたいと思っているのだが、回りを囲む人間に動かされて出来なくなっているのだろうか。オバマの核兵器廃棄演説同様、アフガン演説の後にも、オバマの演説を否定する(あるいは否定に近い)閣僚などの発言が相次いで登場する。しかし、目を通している限り、オバマが彼らと対立している報道は出てこないようだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・ 米中央軍のペトレアス司令官はFOXテレビのニュース番組に出演し、「新戦略は、出口に突進する動きを始動させるものではない」と訴えた。
・ ゲーツ国防長官はCBSテレビとのインタビューで、「(撤退の)期限などない。特定の時期から、地域ごと、州ごとに治安権限の移譲を進めていこうとの計画があるだけだ」と語った。

国防幹部が相次ぎテレビ出演、アフガン新戦略を説明
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200912070012.html
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

関連記事:
一米国民が見た米大統領の「降服」 1 ― 2009/12/06
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2009/12/06/4743700
一米国民が見た米大統領の「降服」 2 ― 2009/12/06
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2009/12/06/4744023

二人の米国民が見たオバマの戦争 12009/12/11

現地時間12月1日、ウェスト・ポイント陸軍士官学校でのアフガニスタン増派演説後の世論調査はなかなか興味深いものだった。朝日が伝えるCNN世論調査では、こうなっている。

米のアフガン新戦略、62%が支持 CNN世論調査
http://www.asahi.com/international/update/1205/TKY200912050388.html

しかし、この記事で何となく笑えるのは次の部分だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2011年夏の米軍撤退開始への賛成も66%にのぼった。
...
しかし、「11年夏に撤退が開始できるまでにアフガンの状況が良くなっている」との答えは33%にとどまり、米国民はアフガン戦争の行方を楽観はしていないことをうかがわせた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前に紹介したように、オバマがウェスト・ポイントでの演説で口にした撤退が現地司令官の判断に基づくという条件付きであることを前提にすれば、米国民の66%は「2011年夏の米軍撤退開始への賛成」と答える一方、かなりの割合の米国民が腹の底では「米軍の撤退はない」と思っていることになる。

大多数の米国民は、米軍の世界戦略がアフガンとイラク当初での圧倒的軍事力差を前提にした「Shock & Awe」戦略から根本的に変わったことを理解していないと思われる。米国は新しい戦略を採り入れた。2007年からイラクで実施された、カネを使ったCOIN(Counterinsurgency、対反政府勢力)戦略である。米国での報道は、自分たちの都合の良いように言い換えをするのでもっともらしく響くが、要するに、対ゲリラ戦略である。ゲリラ活動をしていたイラク人に給料を与えることで、米軍に対する攻撃を減少させた。このCOIN戦略が本当に成功したのかどうかは評価は分かれるが、米軍に対する攻撃、米兵の死傷者が大幅に減ったことは事実である。

とはいえ、Insurgency(反政府勢力)というとどことなく聞こえは悪いが、その政府勢力というのが腐敗の固まりとなれば、話は別である。アフガニスタンのカルザイ政権は、国際的にも、また米国からさえも腐敗の固まりと評価されている。となれば、ウェスト・ポイントの演説でオバマさんが、一部ネオコンのように大っぴらにカルザイ政権のてこ入れと言えないのも納得のいくところである。

では、オバマは、腐り切ったカルザイ政権をそのままにして、なぜ増派をするんだろうか...

反対の度合い、視点は違うものの、この増派に反対しているリベラルのトム・エンゲルハルトさんと保守のパット・ラングさんの二人のそれぞれの立場の意見は示唆に富んでいる。日本国民の俺から見ると、これまで世界を牛耳ってきた米国、そして欧州主要国にとっても、この優越性を維持できるかどうかが決まる最後の戦い(世界全面戦争を残して)に入っていると見える。日本がこれに巻き込まれないと思うお人好しはいないだろう。

二人の米国民が見たオバマの戦争 22009/12/12

現地時間12月1日、ウェスト・ポイント陸軍士官学校でのオバマのアフガニスタン増派演説後のマスコミ報道を見ると、あたかもオバマが決意を新たに大幅増派に踏み切ったように見える。しかし、アフガニスタンで現実に起きていることを時間とともに追っていくと、今回の増派がブッシュから引き継がれ、戦線をさらに拡大する方向での政策の一環だったという見方が成り立つ。単に国防長官がラムズフェルドからゲーツに変わり、オバマ政権になってもゲーツが続投しているという事実だけではない。そこには、マスコミと一体となった米軍の大きな戦略がある。リベラルのトム・エンゲルハルトさんは、この当たりのことを次のように表現している。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
現実には、民間および諜報の人間とともに米軍は、ブッシュ政権末期以来、ほぼ途絶えることのないサージ状態にある。不幸なことに、このことに関する情報はあり、しばしば優れた報告になっているのだが、戦争の特定面に関する夥しい数のニュース記事の中に散らばってしまっている。そのすべてを把握するには、メディアに載る記事を見逃さず、組み立てていかなければならない。

Tomgram: State of Surge, Afghanistan
http://tomdispatch.com/post/175176/tomgram%3A__state_of_surge%2C_afghanistan/
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エンゲルハルトさんによれば、アフガニスタンでのサージは9つの前線で起こり、一貫して続いている。9つの前線とは?エンゲルハルトさんの紹介するところを簡単にまとめてみよう。

1.米兵のサージ:3万人の新たな増派というが、これは実際にはオバマの増派第2弾である。2009年1月に政権に就いたとき、アフガニスタンの米兵数は32,000人ちょび。その後この3月に21,000人が増派され、演説時点では、68,000~70,000人になっていた。それでも数が合わない人数は、ブッシュ時代のものやオバマがホワイトハウスの承認・発表なしに増派してもよいと許可した人数で構成される。

2.傭兵のサージ:軍事が民営化、私有化されている米国の状況では、実際のところ米軍の規模を話すだけでは意味をなさない。兵站業務、基地保安業務などに非常に多くの傭兵が働いている。大部分はペンタゴンから給料が支払われているが、こうした傭兵のサージを誰が担当しているのかの知るすべはない。増派の検討にさいして、オバマがこうした傭兵を検討対象にしたのかどうかも分からない。メディアでもほとんど触れられることはない。ただし、演説後のウォールストリートジャーナル記事によれば、6月末から9月末にかけて傭兵は約40%増加して、合計で104,101人になったとされる。多くはDynCorp InternationalやFluorなどで雇われた現地アフガン人とのこと。

3.民兵のサージ。米軍特殊部隊が、イラクでの覚醒運動を真似てタリバンに対抗する民兵を育てる試験的なミニサージプログラムを実施している。これらの民兵にカネを払って村々に「監視組織」みたいなものを結成させる。

4.民間人のサージ:外交官や農業・教育・医療、法律などの専門家のミニサージ。これはパキスタンでも行われており、イスラマバードに予定されている巨大大使館施設の建設と同期している。

5.CIAと特殊部隊のサージ:オバマは演説で一言も触れなかったが、オバマ就任以来、ドローンと呼ばれる無人機による爆撃が増加し、パキスタンの部族地域への増加の許可を出している。また、部族地域以外へのドローン爆撃も計画されている。

パキスタンのカラチにある秘密基地に米軍秘密作戦部隊と戦争請負業者Xe(前ブラックウォーター)の暗殺部隊があり、タリバンとアルカイーダの暗殺に従事している。パキスタンでの活動は秘密裏で裏予算が使われており、実態を知ることはほとんど不可能かもしれない。

6.基地建設のサージ:12月1日の演説のかなり前にアフガニスタンでは基地建設のサージがあった。カンダハールの米軍空軍基地は拡大する一方で、「新興都市」の様相を呈している。加えて南部の至る所に前線基地や前哨基地も作られている。ニック・タースの11月初旬の報告によれば、「アフガニスタンは米軍の建設ラッシュであり、これを見ると、ワシントンがどんなことを決定しようが、米軍はほぼ永久にアフガニスタンに駐留する計画のようだ。」とのこと。

7.訓練のサージ:NATO軍と米軍によってこちらのサージも行われているが、周知のとおり、成果はかなり芳しくない。昨年訓練した兵士のうちの25%は逃げ出し戻ってこない。警察官の方も給料が悪く、腐敗していて、薬漬け。兵士数は、現在の94,000人(実際には4万人ちょび程度の可能性)から来年秋までに164,000人、来年末までに240,000人にする計画。

8.戦費のサージ:ペンタゴンが最も透明性に欠ける組織なので、戦費のサージは割り出すのが難しい。確実に言えることは、オバマの300億ドルという数字は、実際の戦費サージという点ではほとんど根拠がないということ。この数字で米兵、傭兵、基地などをカバーできることはありえない。兵士と警官の訓練だけでも、これまでにすでに150億ドル、100億ドル超を費やしている。

議会の公聴会でCentcom司令官のペトラウスは年間100億ドルと言っているが、アフガニスタンのような貧乏国がどうやったら40万の部隊を維持できるのか想像してみるといい。カルザイは、そのような規模の軍隊に給料を払えるようになるには15年から20年かかると言っている。

9.反撤退のサージ:ウェスト・ポイントの演説でのオバマの2011年7月までの撤退という発言に対して、日曜の朝のトークショーでは一斉にそのオバマの発言を否定する、打ち消す発言が流された。代表的なのは、当のオバマ政権の一員のゲーツ国防長官や国家安全保障担当大統領補佐官の発言、つまり、「2011年7月」というのは長期にわたる過程の「終わり」ではなく「単なる始まり」。

核密約だけではない日本外交のガン2009/12/12

掲示板の阿修羅でも取り上げられていたが、「反戦な家づくり」というブログを出している建築士の方が米軍の普天間基地移設問題について興味深い資料を紹介している。

「普天間基地はグアムに移転するようだ」 from 「反戦な家づくり」
http://sensouhantai.blog25.fc2.com/blog-entry-803.html

この記事では、ブログの表題がそのまま注目されているのだが、それ以上に俺が驚いたのは、紹介されている宜野湾市の伊波洋一市長署名入りの「普天間基地のグアム移転の可能性について」という11月26日付けの公式資料である。その中にこんな記述がある。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2.なぜ、司令部だけがグアムに行くとされてきたのか。

理由は、1996 年のSACO合意だった海兵隊ヘリ部隊の辺野古移転のイメージを基にした国会審議での答弁や、米国政府関係者の意図的な「発言」だけが報道され、2006 年5 月の「再編実施のための日米ロードマップ」合意に基づいて太平洋米軍司令部が策定した「グアム統合軍事開発計画」と実行されている同計画に基づく環境影響評価などの「事実」は報道もされず、検証もされなかったことによる。

日本政府は、意図的に同計画について米国に照会することをせず、日米両政府は「グアム統合軍事開発計画」について「正式な決定ではない」として詳細は未定と押し通してきた。その結果、国会での答弁や日米政府関係者の発言は、「グアム統合軍事開発計画」について踏み込まず、2005 年10 月の「日米同盟:未来のための変革と再編」の合意の時点に固定されたままになった。結果的に、「発言や答弁」の報道に終始するマスコミの報道も同様となり、現在進行している「事実」は、国会議員にも政府関係者にも、国民にも共有されていない。

「普天間基地のグアム移転の可能性について」
http://www.city.ginowan.okinawa.jp/DAT/LIB/WEB/1/091126_mayor_5.pdf
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

これを読んで俺は、当然(少なくとも俺にとっては)、外務省とか防衛省に米軍の再編計画に関する資料があるのかと思っていた。それに基づいてマスコミは報道しているのかと思っていた。なぜなら、そうした具体的な計画を知らずに辺野古への移転が必要とか、そんなことは議論のしようがないからだ。前提がないものを議論のしようがない。しかし、見落としていない限り、外務省にも防衛省にも、その種の米軍再編に関する具体的な資料はどこを探してもないのだ。

そうなると例えば現在マスコミとかがさかんに報道しているように、合意を守って辺野古に基地を新設したとして、米国が建設途中でやっぱりいりません、あるいは一年後にその基地は不要になりましたって言い出すことことだってあり得るわけだ。単に期限とか合意とか言う前に、そもそも宜野湾市の資料で指摘されているように、米軍の再編計画、グアム移転計画の具体的な内容を知ってから、移転の問題を話し合ったって遅くはないだろう。というより、具体的な内容を知らないで、移転とか予算の話をする方が間違っている。