*米国の異様な「国民皆保険」議論と郵政民営化(追記追加)2009/08/24

この間、オバマが提唱する「国民皆保険」にまつわる米国での意見、議論を読んでいるのだが、何か異様な感じを覚える。米国という国は、本当にカネで何でもできてしまう国だ。医者にもかかれずに死んでしまう人間がいる一方で、政府が医療保険を国民に提供すると、民間保険会社の競争の自由が失われる、という理屈がまかり通り、オバマ大統領まで「public option」の撤回を示唆している。(しかし、俺の言葉の印象だが、この「public option」という言葉自体が「公的な国民皆保険」から腰が引けており、その否定を意味している。医療が保険会社の金儲けと馴染むと考える方がどうかしている。)

この米国での異様な「国民皆保険」議論に入る前に、郵政民営化との関連で、2007年に稲村公望さんが書かれたこのコラムは非常に示唆に飛んでいると思えるので全文を紹介したい(事後承諾になるがご勘弁)。

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2007.9.28(金)
稲村公望(中央大学大学院客員教授)
医療の市場化、郵政民営化は亡国の改悪である

 すっかり秋の風情です。が、季節の移ろいを味わう余裕はありません。あれだけ、反対の議論がある中で強行された郵政民営化が来週の月曜日から実施に移されます。明らかなサービスダウンがあり、批判が高まる中で、移動郵便車で過疎地をサービスするなどと、小手先で二番煎じのアイデアを郵政会社の西川社長が発表しています。
 郵便局の4分割でできる仕切りは、新・ベルリンの壁と揶揄されていますが、範囲の経済学が無視された象徴で、国民が直に見ることになります。手数料は大幅に上がりますし、金融と非金融の分離と称する市場原理主義者の思惑は、国民生活の利便を大幅に低下させることになるでしょう。アルゼンチンやニュージーランドの郵政民営化が惨状に終わった教訓を一切聞くこともなく、一歩一歩、世界に冠たる評判の日本の郵政はいよいよ破局の道を進むことになります。残念至極です。
 しかし、明らかに政治の潮流は変わりましたので、近い将来に郵政民営化の凍結あるいは見直しができる情勢に至ることをあらためて祈念するところです。

 現場の郵便局の職員は本当にがんばっています。あちらこちらから悲鳴が聞こえてきます。郵便局の現場は、ロボット化するマニュアルの研修や、いたるところにすえつけられた監視カメラなど、ジョージ・オーウェルの『動物農場』や、『1984』を想像させる事態になりつつありますが、そんなことが長続きする改革であるはずがありません。
 日本が繁栄するのは、いつも国民の精神が自由な時代でしたし、上意下達の統制が進むときはいつも戦争になる時代でしたから、10月1日を、郵政民営化と称する私物化と官僚支配の強化と外国資本への隷従をくいとめるための新たな出発点としなければなりません。臥薪嘗胆、国民に奉仕する精神をなんとか維持しなければなりません。

 全国で、米国の劣悪な医療保険制度を批判する映画が封切されています。その紹介もかねて、月刊『日本』10月号に雑文を執筆いたしました。以下、ご紹介します。

《医療の市場化、郵政民営化は亡国の改悪だ
 マイケル・ムーア監督の新作ドキュメンタリー映画『シッコ(Sicko)』が日本でも封切りになった。
「シッコ」とは、お病気という俗語だが、アメリカの医療保険制度の欠陥を追及した話題の映画だ。
 アメリカでは、保険に未加入の人口が約5000万人あり、病院にも行けないで死亡する人が、毎年約1万8000人もいるという。
 世界保健機構の順位では、アメリカの医療保険の充実度は、世界第37位。一昔前でも歯科治療の法外な値投は有名で、出張や留学する場合には、海外旅行保険をかけていくのが常識だった。
 ニューヨークでは、盲腸炎の手術するのに200万円はかかるとの調査で(日本では33万とか)、保険がなければ、大変なことになる。
 医者にかかるには、いちいち保険会社にお伺いをたてる制度で、どの病院を使えとか、保険の適用・不適用を指図する。その団体の審査医が、とにかく10%ぐらいの保険の申請は拒否しろ、そうすれば、給料が上がり、昇進する、成果主義?の医療体制になっている。
 電気ノコで中指と薬指とを切断したときに、どちらの指をつなぐかを保険会社が指図する(筆者の知人がベトナムで五本の指を落とす事件があったが、合気道の名人で、あわてず騒がず指を病院に待ち込み、縫合手術に成功した。アメリカだったら、機転はきかなかったか)。
 費用が払えなくなった入院患者には、タクシー券を渡して、路頭に放り出す。もちろん救急車は有料だ。アメリカの病院の周りにはホテルがあるが、これは入院費が高いので入院しないためで、退院を急ぐのは、料金が高いからである。
 カナダは国民皆保険制度だから、車で国境を越えて病院に行くほうが格安で、医療費用捻出のための偽装結婚すらある。
 世界貿易センターのテロの後の瓦礫の中で英雄的な仕事をした消防士に呼吸器に障害が出て、1本125ドルの薬を保険会社が認めないので治療を控えていたが、テロリスト収容所のあるキューバにまで行って、ようやくまともな治療が無料で受けられた。同じ薬が1ドルもしない。
 イギリスは、租税負担の国立病院では無料診療で、病院までの交通費すら払い戻す。日本にもまだないのだが、パリには24時間の医者の往診サービスがある。さすが、国境なき医師団の発祥の地だ。子供が生まれると、週2回、ベビーシッターのサービスもある。夕食の用意もする。出生率が上がるわけだ。
 フランスは、食料の自給率も100%を越えている。フランスの航空会社を、なぜ民営化しないのだと聞いたら、世界で一番おいしい機内食を出しているのに、何でそういうことを聞くのか、と逆に食ってかかられた。 『シッコ』は、日米構造協議とやらで圧力をかける側の医療制度が劣悪であることを天下に明らかにした映画である。
 アメリカの業界の意見は、アメリカ人の声を代表しているわけではない。ヨーロッパの医療制度が発達したものであることを見せつける。
 もちろん、タダより高いものはないような話もあった。
 モスクワの暖房は無料だったが、暖房を止められると凍死するから、政治的な主張をする活動家は携帯の白金カイロをうらやましいと思うのが本音だったし、病院も格安ではあったが、注射針も使いまわしして、家畜用の麦をパンにして食べさせた共産主義国の話も多々あった。一党独裁の中国の医療は、現金前払いでなければ、医者に診てもらえない制度になってしまった。
 イギリスやフランスやイタリアでは、無料だからといって医療水準が低いわけではない。アメリカのように一部の医療水準は高くても、多数の国民が医者にかかれない国は先進国といえるだろうか。
 日本は、昭和36年にやっと国民皆保険の国となったが、映 画『シッコ』では日本の例は残念ながら紹介されていない。
 「医療改革」と称して、自己負担の割合が増えたり、企業の保険組合が赤字になったりして、財政赤字を理由にどんどん改悪を進めて、世界の医療保険優良国の地位から外れてしまったのかもしれない。
 日本の国民皆保険は、一朝一タに成り立ったわけではない。
 国民の医療費の重圧から解放するために、医療の社会化を目指した、鈴木梅四郎のような人物の思想と行動が結実したものである(1928年に『医業国営論』を著し、衛生省を頂点とする医療国営を提唱している。同書は戦後原書房から再刊されている)。
 郵便局の簡易保険なども、大正の時代に、国民の医療費を補うために設計された無審査の、どこでも、誰でも入れる、画期的な文字通りのユニバーサルな制度であった(現在でも危険な職業の、例えば自動車レースの運転者などが入れるのは簡易保険だけである)。
 小泉・竹中劇場政治の日本では、「規制改革」を掲げる市場原理主義を追従する連中が、病院の株式会社化とか、介護の民営化とか、混合医療の解禁とか、人間の病をネタに金儲けするアメリカ保険業界の手法を、次々と強気で提案してきた。
 郵政民営化でも簡易保険を廃止せよと拍迫られて、米国の保険業界のロビイストが暗躍した。
 郵政民営化が10月1日に実施されれば、簡易保険は大正以来の社会政策の歴史を閉じる。郵政民営化自体が、アメリカ保険業界の陰謀が作用したことは、もはや明らかである以上、早急に凍結、見直しを図り、不要の混乱と破壊を回避しなければならない。
 この映画を見れば、日本がアメリカを真似して導入した色々な分野の構造「改革」が、亡国の改悪にしか過ぎないことが容易に想像できる。
 市場原理主義は、同胞・はらからの安寧と幸せを四方に念じる、日本の国体にはなじまない拝金の無思想である。
 百聞は一見にしかずの映画です。ぜひ見てください。

ソースURL:http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/YU53.HTML
(転載終わり)
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追記:お断りしておくが、日本人の俺としては米国民がどのような「国民皆保険」制度を持とうが、米国民の勝手だ。人命より企業の自由競争の方が重要ならば、そうすればいいだけのこと。しかし、オバマの提唱していた「public option」さえ無くして、医療保険をすべて民間保険会社に委ねてしまった場合、それが意味することはどうなるのだろうか?日本のように保険料を利用して官僚がということがあるにしても、目先の利益を最大の目標とする民間保険会社に国民の医療を委ねたら、一体全体どういうことになるのだろうか?

アンケート! 竹中平蔵氏を国会で証人喚問すべきか?2009/07/22

前の選挙で「片山さつき」という刺客とやらを送り込まれて、惜しくも落選した城内実元議員。以下は、「平成17年6月7日郵政民営化特別委員会」でその城内さんと竹中平蔵国務大臣の間で交わされたやりとりである。竹中氏が誰のために動いていたのか、よく示す内容ではないだろうか。これを読まれて、その後のアンケート「竹中平蔵氏を国会で証人喚問すべきか?」に投票してください。

 城内実委員(当時):「昨年(注:平成16年)の四月から現在までの約一年間、郵政民営化準備室に対する、米国の官民関係者との間での郵政民営化問題についての会談、協議ないし申し入れ等が何回程度行われたか、教えていただきたい。」
竹中平蔵国務大臣 (当時):「昨年の四月二十六日から、郵政民営化準備室はアメリカの政府、民間関係者と十七回面談を行っている。」
城内実委員(当時):「十七回ということは、月に一回は、アメリカの方で早く民営化してくれと言ってきているということだ。かなりの頻繁な数ではないか。それでは、米国生命保険協会がこれまで累次にわたり郵政に関し要望を行っているが昨年から現在まで、郵政民営化に関してどのような内容の声明を出しているのか、そしてそれは大体何回ぐらい出しているのか。」
竹中平蔵国務大臣 (当時):「米国生命保険協会は、昨年来、郵政民営化に関連して、完全なイコールフッティングが確立するまでは郵便保険会社は新商品の発売を認められるべきではない等の主張をする声明等を出している。同協会のホームページによれば、昨年三月以降現在まで、九回の声明等を発出したものと承知している。さらに米国生命保険協会は、郵政民営化法案に関し、五月十七日付で、この協会は引き続き日本の郵政民営化法案に懸念と期待を表明すると題する表明を発表したというふうに承知をしております。」

アンケート「竹中平蔵氏を国会で証人喚問すべきか?」
http://research.news.livedoor.com/r/24581
(クリックすると、アンケートのページに飛びます)

上記やりとりの出典
城内実の「とことん信念」ブログ
http://www.m-kiuchi.com/2009/02/09/kaikakuriken/

日本郵政問題 - 真打ち登場(現地版)2009/07/08

同じロイター発の記事のワシントンポスト版があって、伝える内容が微妙に異なっていますね。もっと具体的に書いてあって、郵政関係で目に付くのはこれでしょうか。

Japan's insurance market is the second largest in the world after the United States, with an estimated $300 billion in net premiums paid each year.(日本の保険市場は米国に次ぐ第2位で年間の純保険料は30兆円と推定される。)

A U.S. trade official, speaking on condition he not be identified, told reporters Japan Post's "obligatory 10-year contract to sell insurance products through over 20,000 post offices in Japan" gives it a major advantage over other insurance companies.(米国通商当局者が匿名を条件に語ったところによれば、日本郵政は2万を超える郵便局を通じて10年満期の保険商品を販売しており、他の保険会社よりかなり優位な立場に立っている。)

出典:Washington Post - U.S. presses Japan on beef, insurance trade barriers(米国、牛肉と保険の貿易障壁で日本に圧力)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/07/06/AR2009070602091_pf.html
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「日本に圧力」って表現はまことに適切でいいですね。郵政関係では、米国系保険会社が日本の保険を獲得する上で郵便局自体が邪魔な存在ってことですね。確かに日本を解体する上で邪魔には違いありません。

ところで、日本でも米国でも、以前に年次改革要望書がこのような記事になったことがありましたっけ?

日本郵政問題 - 真打ち登場2009/07/07

2008年度年次改革要望書の米国側評価なるものが出てきたようですね。米国のマスコミも単に言われたことを流すだけでしょうから、米国側の認識が分かって面白いかもしれません。日本郵政の保険関係で「ある政府高官」なんてのも登場しちゃうし。

[ロイター発]
米政府、日本に米国産牛肉輸入と保険市場の規制緩和を促進するよう要請=年次改革要望書
2009年 07月 7日 10:26 JST
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnJS841554820090707

 [ワシントン 6日 ロイター] 米政府は6日、日米の規制・制度に関する年次改革要望書を発表し、米国産輸入牛肉および保険サービス市場の規制緩和を求めた。ただ、その他の分野における日本の市場開放措置に関しては一定の評価を示した。

 ロン・カーク米通商代表部(USTR)代表は声明で「米国産牛肉の輸入正常化および米保険業界に対する公平な参入機会の確保という2つの問題は、引き続き深刻な懸念である」として、日本政府に早期解決を求めた。

 日本は米国産牛肉の最大市場だったが、BSE(牛海綿状脳症)感染問題に伴い日本政府は2003年12月に米国産牛肉の輸入を禁止。その後06年7月に輸入を再開したが、BSEリスクが低いとされる生後20カ月以下の牛の肉に限って輸入を認めている。

 これに対し米政府は、国際的なガイドラインに準じて輸入牛肉に対する年齢制限を撤廃するよう日本政府に求めている。

 一方、世界で米国に次ぐ規模とされる日本の保険市場については、日本郵政グループが独占していると指摘。ある政府高官は記者団に対し、民間の保険会社に義務付けられているルールや規制に「日本郵政が十分に準拠していないことを示すかなりの証拠がある」と述べた。

 半面、製薬・医療機器に関する規制見直し加速に向けた新たな取り組みやインターネット上での著作権侵害に関する法的整備の強化、米園芸輸入品に対する新検査体制の確立など、その他の日本政府の規制緩和措置に関しては、一定の評価を示した。

 08年における日本の対米貿易黒字は727億ドルに上る。 

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細かい部分は機会があればということにして、最後の「08年における日本の対米貿易黒字は727億ドルに上る」がおかしいですね。米国の対中貿易を見ても分かるように、元々米国は自分たちで自国産業をアウトソーシングして、取引額では相手が黒字、儲けの方は一杯献金してくれる自国の方々の懐に入るようにやっているわけですから。

とはいえ、規制緩和を求める根拠というのが未だに貿易黒字なんてのも、あまりにも馬鹿らしくて、笑っちゃうというか。統計上、日本や中国が貿易黒字になるのは当たり前ですね。貿易黒字・貿易赤字なんて表の輸出・輸入額の比較にすぎないわけで。

*Big Brother is Watching You2009/07/05

郵政問題はまだ始まったばかりだが、1ヶ月前の鳩山総務相の辞任後、西川さんを続投させようと麻生さんに働きかけたとして未だに小泉元首相の名前が登場するのはなかなか興味深い。マスコミばかりでなく、少し前に紹介した須田慎一郎、高野孟両氏の対談でも、この二人は物知り顔にまだ小泉氏の影響力があることを臭わせる発言をしている。

引用開始>
高野:それで、最後はどうなったのでしょう? 私が思うに、小泉純一郎元首相が「本当に西川のクビを切るのか!それなら俺は党を出るぞ」といったようなことを言ったのだと思いますが。
須田:最終的には小泉さんが動いたのですが、それ以外に奥田碩日本経団連名誉会長がブレず、「西川続投支持」ということで決着がついたと私は思っています。
・・・
須田:人事指名委員会が西川さんの続投を支持しなければ、水面下の動きでいくら小泉さんや竹中さんが「西川続投」と言ったところで、それは負け犬の遠吠えです。当初はこういった形の“美しい落としどころ ”が可能だったと思います。だけど、奥田さんは一時は官邸寄りだったのですが、最終的には西川続投を支持したようです。最後に小泉さんが神通力を発揮したと感じますね。
高野:最終的には小泉さんが「チルドレンを引き連れて自民党を割って出るぞ!」という覚悟でのぞんだんでしょうね。
須田慎一郎×高野孟:かんぽの宿騒動の真相を語る
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2009/06/post_305.html
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この二人が本当に言いたかったことは何だろうか。小泉チルドレンの力などすでにないことは分かっている。次の衆院選はほぼ全員落選だろうから、引き連れて自民党を割ろうが大したこととも思えない。小泉さんの方は、自ら応援に出たのに地元の横須賀の市長選でさえ勝てなかった。もはや小泉氏に神通力などないことなど、普段、自民党の議員と接しているであろう二人なら身にしみて分かっているはずなのだ。となると、須田、高野両氏は小泉という名前を出すことで何を言いたかったんだろうか?なぜ、日本郵政の問題の決着が付いたかのような発言をしているのだろうか?

また麻生首相は、小泉さんにすでに力などないことが分からないほど裸の王様、ボンクラだったのであろうか。いくら総理大臣の椅子に長くいたいと思っているとしても、鳩山さんの方の首を切れば、大多数の国民から総スカンを食うぐらい知っていたのではないのか。にもかかわらず、鳩山さんの方を辞任させた。もっと恐ろしい何かがあった?

となると、たどり着く結論は一つじゃないだろうか。マスコミなどから小泉氏の名前が出てくる理由。また、他人の口を介してとはいえ、小泉さん自身が自分の名前を出させる理由。向こう側にいるBig Brotherのことを示唆したかったのではないだろうか。

Big Brother is watching you.

というわけだ。これは脅しであり、この脅しが麻生さんばかりでなく、誰に向けられたものかを考えるのも、なかなか興味深い。