一米国民が見た米大統領の「降服」 12009/12/06

世の中には現場にいると見えないこともあれば、現場にいないと見えないこともある。これから紹介する事柄は後者に属することだろう。それも、長期にわたってその現場にいて、その出来事を過去と照らし合わせる知識を持ち合わせていなければならない。

日本でも大々的に報道された、この12月1日のオバマ大統領のアフガニスタンへの増派演説。予想通りとはいえ、その反響は大きかった。その中で、時事サイト「TomDispatch」を主宰しているTom Engelhardtさんは、あの演説は米軍将軍たちに対するオバマ大統領の「降服」宣言と見えたようだ。それも、かなりの根拠を持って。見出しもふるっている。最高司令官を意味する「Commander-in-Chief」ではなく、「Commanded-in-Chief」だ。

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象徴的な文民当局の降服

読者はそう思わないかもしれない。しかし、火曜夜、米国陸軍士官学校からの初の米国民向けプライムタイム大統領演説で、バラック・オバマは降服した。そのようには見えなかったかもしれない。降伏文書があるわけではない。USSミズーリの艦上であったわけではない。お辞儀をしたわけではない。しかしながら、この日を境に、オバマ大統領は「命令する米軍最高司令官」ではなく、「命令される米軍最高司令官」と考えよう。

Tomgram: Meet the Commanded-in-Chief
http://tomdispatch.com/post/175172/tomgram%3A__meet_the_commanded-in-chief/
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彼がこう書くのも無理はない。9月後半のアフガン戦争司令官、マクリスタル将軍の意図的なリークと増兵条件が満たされなければ軍を退くとの大っぴらな脅しがあったのだから。

朝鮮戦争さなかの1951年春、トルーマン大統領が戦線縮小を唱えたとき、マッカーサー将軍は反対を唱えて解任された。マクリスタル将軍がやったことも文民統制への反乱であり、ローリングストーン誌でロバート・ドレイファスはこれを「将軍たちの反乱(a “generals’ revolt")」と呼んだ。

さらに、オバマ大統領はアフガン戦略という国民向けの最重要演説の一つを大統領執務室ではなく、ウェスト・ポイントにある陸軍士官学校から行った。もちろんブッシュも士官学校で演説をしたが、それらは伝統的に士官学校生徒が卒業する時に行われたものだ。最重要演説の一つを卒業時期ではなく、ウェスト・ポイントで行った大統領はオバマが初めてではないだろうか。この演説場所の選定、そして聴衆の対象が先ず国民ではなく、米軍という決定は、アフガンの今後を示唆しているばかりでなく、軍部に対する文民当局の降服を意味している。

世界中で取り上げられたこの重要な演説が、ウェスト・ポイントの陸軍士官学校で行われたというのは、確かに、その内容以上に大きな意味を持つと思える。オバマが向かっている米国の未来、そしてアフガニスタン、パキスタンの未来を予感させるといったところだろうか。

Photo Spotlight: Obama greets cadets
http://afghanistan.blogs.cnn.com/2009/12/02/obama-greets-cadets/

一米国民が見た米大統領の「降服」 22009/12/06

リベラルと思われるトム・エンゲルハルトさんの「降服」まではいかないが、今回のオバマ演説については、元グリーンベレーで情報将校だったパトリック・ラングさんもまったく同じ見方をしている、「将軍たちの全面勝利」。

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92日間の「討議」に続き、米陸軍士官候補生とわずかな人数のブルーの征服の士官学校教職員・将校、閣僚の前で奇妙な演出の下で行われたれたウェスト・ポイントのアイゼンハワー・ホールでのオバマ演説。
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今朝(演説翌日の2日の朝)、ムレン提督、国防長官ゲーツおよび国務長官クリントンは上院に赴き、軍事委員会でオバマの立場を説明した。マケイン上院議員の質問を受け、彼らはアフガニスタンからの撤退は、昨晩の発表を生んだのと同じ手続きに基づくと発言した。言い替えれば、彼らは次の大統領選挙前の撤退を考えていない。
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アフガン戦争は米軍がアフガニスタンで戦争をしていること自体が目的になっている。終わりのない戦争になった。アーメン。

The generals won - everything.
http://turcopolier.typepad.com/sic_semper_tyrannis/2009/12/the-generals-won-everything.html
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なぜ、ラングさん言うような結論が出るかというと、撤退するかどうかというのは、ブッシュとチェイニーの時と同じ、現場(現地司令官、責任者)の判断に基づくとなっているからだ。だから、オバマがいつ撤退とか演説で言おうが関係ない。

米軍経験が長く自称保守のラングさんが、リベラルと思われるトム・エンゲルハルトさんとまったく同じ意見というのは、異様な感じを受ける。特に「アフガン戦争は米軍がアフガニスタンで戦争をしていること自体が目的になっている。終わりのない戦争になった。アーメン。」は意味深で、原文では次のようになっている。

「This has become a self-licking ice cream cone. War without end, amen.」

「self-licking」は俺も初めて目にする言葉だが、何と言ったらいいだろう。「大した役にたたないのだが、ただ自己が存在する目的のためだけに存在する」というか。一番ピッタリするのは、日本の官僚がつくる独立行政法人とかそんなのだろうか。別に社会の役に立つわけではないのだが、官僚にとってはその存在そのものに意味があるというか、そんな感じだろうか。つまり、米軍の将軍たちにとって、アフガン戦争自体が自分たちの存在を正当化するための道具になってしまっているという状態である。

二人の書いたものを読むと、米国全体が異様な空気に包まれているのを感じる。何が異様なのか、時間が許す限り、掘り下げていってみたい。俺自身も、ウェスト・ポイント、陸軍士官学校でのオバマ演説は、演説内容以前に、その舞台設定の一点でも象徴的な出来事だったと感じる。