国民からの乖離を示すマスコミの姿 2 (更新) ― 2010/01/26
News Spiralに興味深い日経BPの世論調査結果が紹介されている。これは少し前に紹介した、国民が国会で何を重視するかに関する産経の18日付け発表の世論調査結果とほぼ同じである。
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小沢問題より予算の審議を:日経ビジネス世論調査
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/01/post_473.html
日経ビジネス・オンラインは、どういうわけか、国会が始まった1月18日にウェブサイトを通じて行った緊急アンケートの結果を今頃になって掲載した。有効回答886、同誌の読者層を反映して男性が8割超、40代が4分の1を占めるなど回答者が偏ってはいるものの、今国会の中心テーマについて、「政治とカネ」「どちらかと言えば政治とカネ」と答えた人は22.2%、「予算関連の論戦」「どちらかと言えば予算関連の論戦」が64.4%に達するという「意外な結果」が出た。
また、小沢が幹事長を「辞任すべき」「どちらかと言えば辞任すべき」は計48.7%で、半数近いが、複数の全国紙が 16-17日に実施した世論調査で7割近くが辞任すべきと答えたのに比べると、だいぶ隔たりがある。同誌は「検察というもう一方の"巨大権力"に対しても懐疑的な見方があるのだろう」と注釈した。実際、検察が行った関係先への強制捜査や、国会直前に現職国会議員を逮捕する手法については、「強引」「どちらかと言えば強引」が46.9%を占め、「適切」「どちらかと言えば適切」の37.8%を上回った。
事件を巡る小沢の説明責任については、「果たしていない」「どちらかと言えば果たしていない」は67.4%と批判的な答えが圧倒的だった。
また、昨夏の衆院選と今夏の参院選のそれぞれ比例区での投票先を聞くと、民主党は40.2%から27.5%に減少したが、自民党は23.1%から14.9%と、減少率は自民党のほうが大きい。
全体として、40代を中心とするビジネスマン層は、検察・マスコミ・自民党連合軍の小沢抹殺キャンペーンにそうそう騙されている訳ではないということである。
これは、国会開会当日の調査であり、その後、自民党が国会で専ら「政治とカネ」の問題で民主党を責め立て、また検察による小沢の事情聴取も行われた今日の時点で、この傾向はさらに深まったのか反転したのか、再調査が待たれる。
■国会審議、政治とカネより予算を 緊急アンケート結果報告(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100122/212361/?P=1
■産経はこちら
【産経・FNN合同世論調査】主な質問と回答
【問】18日召集の通常国会で最も優先されるべきことは
景気対策のための予算案の早期成立65.3
政治とカネの問題での事実解明や対策22.2
党首討論など与野党の活発な議論 5.0
政治主導を強めるための体制の確立 6.0
わからないなど 1.5
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100118/stt1001181653011-n2.htm
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つまり、テレビ・新聞の大手マスコミが連日大騒ぎしている「政治とカネ」は、国民の5分の1程度の人が騒いでいるということだ。6割から7割は経済や生活第一である。さらに興味深いのは、「小沢さんの説明責任」だろう。何と8割から9割の人が「果たしていない」と答えている。例えば共同通信が10日、11日に行った世論調査では、
85・5%が小沢氏説明責任果たしていない
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20100111-584849.html
ここで、「具体的に小沢さんの何が説明責任を果たしていないと思いますか?」と問うたらどうだろう、なんて野暮なことを指摘してはいけない。とにかく「説明責任」であり、「何が問題」を問題にしてはいけないのだ。収賄とかの違法なカネをもらって、虚偽記載/不記載なら大問題だろうが、そうではなく、単なる記載ミスで何でこんなに大騒ぎするのだろうか。それ以前に、違法なカネならそちらを問題にするだろう。ってなわけで、実を言うと、ずっと小沢さんの件を追っている俺でさえ、小沢さんの「何が問題」なのかよく分からない。
こう見てくると、小沢さんに関するマスコミの疑惑報道の構造がはっきりと輪郭を表す。---何だかわからないがマスコミが疑惑で騒いでいて、何だか分からないが説明責任の話になっており、何だか分からないがマスコミが説明責任というので、説明責任なんだろう。というわけで国民は「説明責任を果たしていない」と答える。
さらに、国民の最大の関心とは別にマスコミは大騒ぎしているわけだから、何らかの操作をしていると考えるのが普通だろう。
国会で何を重視するかと問えば、少なくとも2つの世論調査では6割以上の国民が経済、つまり国民生活を挙げている。このことを踏まえると、現在のマスコミや自民党、検察のやっていることがいかに滑稽な結末を迎えることになるのか、想像できる気がする。
「マスコミに“表向きでは公正公平な報道を求めつつ”、“公正公平な報道はない”ことを前提に対応、戦術を考える。」
元気のないらしい民主党の若手議員も、とりあえずは、現在のマスコミ報道などはこの程度のものという認識を持って欲しいものだ。海千山千、元警察官僚の亀井さんの会見を参考にするのもいいだろう。このぐらいじゃないと、奥の深い政治家になれないんでなかろうか。
関連記事:
国民からの乖離を示すマスコミの姿(更新)
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2010/01/25/4837636
マスコミによる世論操作という麻薬
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2010/01/19/4821797
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小沢問題より予算の審議を:日経ビジネス世論調査
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/01/post_473.html
日経ビジネス・オンラインは、どういうわけか、国会が始まった1月18日にウェブサイトを通じて行った緊急アンケートの結果を今頃になって掲載した。有効回答886、同誌の読者層を反映して男性が8割超、40代が4分の1を占めるなど回答者が偏ってはいるものの、今国会の中心テーマについて、「政治とカネ」「どちらかと言えば政治とカネ」と答えた人は22.2%、「予算関連の論戦」「どちらかと言えば予算関連の論戦」が64.4%に達するという「意外な結果」が出た。
また、小沢が幹事長を「辞任すべき」「どちらかと言えば辞任すべき」は計48.7%で、半数近いが、複数の全国紙が 16-17日に実施した世論調査で7割近くが辞任すべきと答えたのに比べると、だいぶ隔たりがある。同誌は「検察というもう一方の"巨大権力"に対しても懐疑的な見方があるのだろう」と注釈した。実際、検察が行った関係先への強制捜査や、国会直前に現職国会議員を逮捕する手法については、「強引」「どちらかと言えば強引」が46.9%を占め、「適切」「どちらかと言えば適切」の37.8%を上回った。
事件を巡る小沢の説明責任については、「果たしていない」「どちらかと言えば果たしていない」は67.4%と批判的な答えが圧倒的だった。
また、昨夏の衆院選と今夏の参院選のそれぞれ比例区での投票先を聞くと、民主党は40.2%から27.5%に減少したが、自民党は23.1%から14.9%と、減少率は自民党のほうが大きい。
全体として、40代を中心とするビジネスマン層は、検察・マスコミ・自民党連合軍の小沢抹殺キャンペーンにそうそう騙されている訳ではないということである。
これは、国会開会当日の調査であり、その後、自民党が国会で専ら「政治とカネ」の問題で民主党を責め立て、また検察による小沢の事情聴取も行われた今日の時点で、この傾向はさらに深まったのか反転したのか、再調査が待たれる。
■国会審議、政治とカネより予算を 緊急アンケート結果報告(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100122/212361/?P=1
■産経はこちら
【産経・FNN合同世論調査】主な質問と回答
【問】18日召集の通常国会で最も優先されるべきことは
景気対策のための予算案の早期成立65.3
政治とカネの問題での事実解明や対策22.2
党首討論など与野党の活発な議論 5.0
政治主導を強めるための体制の確立 6.0
わからないなど 1.5
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100118/stt1001181653011-n2.htm
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つまり、テレビ・新聞の大手マスコミが連日大騒ぎしている「政治とカネ」は、国民の5分の1程度の人が騒いでいるということだ。6割から7割は経済や生活第一である。さらに興味深いのは、「小沢さんの説明責任」だろう。何と8割から9割の人が「果たしていない」と答えている。例えば共同通信が10日、11日に行った世論調査では、
85・5%が小沢氏説明責任果たしていない
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20100111-584849.html
ここで、「具体的に小沢さんの何が説明責任を果たしていないと思いますか?」と問うたらどうだろう、なんて野暮なことを指摘してはいけない。とにかく「説明責任」であり、「何が問題」を問題にしてはいけないのだ。収賄とかの違法なカネをもらって、虚偽記載/不記載なら大問題だろうが、そうではなく、単なる記載ミスで何でこんなに大騒ぎするのだろうか。それ以前に、違法なカネならそちらを問題にするだろう。ってなわけで、実を言うと、ずっと小沢さんの件を追っている俺でさえ、小沢さんの「何が問題」なのかよく分からない。
こう見てくると、小沢さんに関するマスコミの疑惑報道の構造がはっきりと輪郭を表す。---何だかわからないがマスコミが疑惑で騒いでいて、何だか分からないが説明責任の話になっており、何だか分からないがマスコミが説明責任というので、説明責任なんだろう。というわけで国民は「説明責任を果たしていない」と答える。
さらに、国民の最大の関心とは別にマスコミは大騒ぎしているわけだから、何らかの操作をしていると考えるのが普通だろう。
国会で何を重視するかと問えば、少なくとも2つの世論調査では6割以上の国民が経済、つまり国民生活を挙げている。このことを踏まえると、現在のマスコミや自民党、検察のやっていることがいかに滑稽な結末を迎えることになるのか、想像できる気がする。
「マスコミに“表向きでは公正公平な報道を求めつつ”、“公正公平な報道はない”ことを前提に対応、戦術を考える。」
元気のないらしい民主党の若手議員も、とりあえずは、現在のマスコミ報道などはこの程度のものという認識を持って欲しいものだ。海千山千、元警察官僚の亀井さんの会見を参考にするのもいいだろう。このぐらいじゃないと、奥の深い政治家になれないんでなかろうか。
関連記事:
国民からの乖離を示すマスコミの姿(更新)
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2010/01/25/4837636
マスコミによる世論操作という麻薬
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2010/01/19/4821797
やはり石川衆議院議員の逮捕は異常そのもの ― 2010/01/26
元東京地検特捜部検事の郷原信郎さんが石川衆議院議員の逮捕の問題点について書いている。すでにお読みになった方も多いだろうが、ここでも再読のために、ジャーナリストの岩上安身さんのブログから再掲させてもらおう。俺自身も自分のもっと身近な観点から、石川さんの逮捕がなぜ異常かを後で書いてみたい。
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「小沢VS検察」ではなく「石川議員逮捕」こそが最大の問題
名城大学教授・弁護士 郷原信郎
2010年1月15日午後10時、北海道11区選出の石川知裕衆議院議員は、東京地検特捜部に逮捕された。第174回通常国会開会の3日前だった。
戦後日本で初めて、国民の選択によって、民主党中心の連立政権が誕生し、政務三役への権限の集中、官僚答弁の禁止など従来の官僚主導から政治主導へ中央省庁が大きく改革された。従来、官僚だけで密室で行われていた予算編成も、事業仕分けという形で、公開の場で市民の参加の下で行われ、1兆8000億円に上る無駄の削減が行われるなど、日本の政治に劇的な変化が起きた。しかし、それによって編成された予算を審議する場である通常国会に、石川議員が北海道11 区の有権者の代表として参加することはできなくなった。
国会議員には憲法によって不逮捕特権が与えられており、会期中は議院の許諾がなければ逮捕されない。会期外で逮捕された場合でも、議院の釈放要求決議あれば釈放される。
それだけに、従来から検察は国会議員の逮捕については慎重な取り扱いをしてきた。政治とカネを巡る問題では1976年のロッキード事件での田中角栄衆議院議員の逮捕以降、10年にわたって国会議員の摘発はなく、久々の国会議員の収賄事件となった1986年の撚糸工連事件、1988年の砂利船汚職事件でも、逮捕は見送られ、任意聴取の後在宅起訴された。そして、8年後の1994年にゼネコン汚職事件で中村喜四郎衆議院議員が逮捕許諾請求の上逮捕されてから、5人の国会議員が逮捕されたが、いずれも、罪名は収賄か、又は裏献金の不記載等の重大・悪質な政治資金規正法違反事件だった。
ところが、今回、石川議員は、前回の選挙で衆議院議員になる前に民主党小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の会計担当者をしていた当時の政治資金の処理手続に関する容疑で、通常国会の開会の3日前という時期に逮捕された。
そのような捜査手法が許されるのか、国会議員の活動に対する検察の介入の是非という観点から徹底的に議論されるのが当然であろう。しかし、マスコミの報道では、「石川議員の逮捕」の是非の問題はほとんど取り上げられず、小沢氏側が「検察と闘っていく」という姿勢をとっていること、鳩山首相を含め民主党がそのような小沢氏を支持していることの是非ばかりが取り上げられ、国民の関心も、小沢氏の聴取がいつ行われるのか、検察は小沢氏を逮捕するのか、などの点に集中している。
今回の容疑事実は、現職の国会議員を国会開会直前に逮捕することを正当化するほどの重大なものなのか。翌日の取調べを待たないで逮捕する事情があったのか、逮捕容疑と逮捕に至る経過を見ると、そこには、重大な問題が浮かび上がってくる。
まず、石川議員の逮捕容疑は、裁判官が発した逮捕状では、平成16年分の政治資金収支報告書の「収入総額」を4億円過少に、「支出総額」を3億5200万円過大に記入した虚偽記入の事実だ。
政治資金規正法では、25条1項2号で政治資金収支報告書に「記載すべき事項を記載しなかった者」、3号で「虚偽の記入をした者」を罰則の対象としている。「収入総額」「支出総額」の欄は、その年の収入と支出を合計したものであり、記載すべき政治献金の収入が記載されていなかったとか、架空の経費が記載されていた事実があれば、それに伴って収入や支出の総額が実際とは違うものになるのは当然だ。収入について過少に報告したということであれば、問題なのは、政治献金等の具体的な収入の記載が行われなかったことや実際より少なく記載されたという問題であって、収入総額の過少というのは、それに伴って当然生じるものに過ぎない。
ところが、今回の石川議員の逮捕の容疑となった被疑事実は、どのような収入・支出が不記載だったのかを特定しないで、全体として収入総額・支出総額が過少だったという政治資金規正法25条1項3号の虚偽記入の事実だけだ。要するに、石川議員が、政治資金収支報告書にどのような事項を記載しなかったのか、どのような不正を行ったのかは、逮捕事実では明らかにされていない。脱税の問題で言えば、どのような収入を隠したのか、どのような支出を架空に計上したのか、というのが犯罪事実の中心のはずなのに、そこが明らかにされないまま、収入の合計金額を少なく申告した、ということだけで逮捕されたようなものだ。
資金管理団体は政治家にとって「政治資金の財布」の役割を果たすものだ。自らの資金管理団体の人件費、事務所費等の経費が不足すれば、代表者の政治家が立て替えるのは当然だ。このような立て替えやその返済も、政治資金規正法上の「収入及び支出」に当たると考え、すべて収支報告書に記載しなければならないとすると、立替えが多い政治家の「収入総額」「支出総額」の記載は、実際の政治活動に係る収支を反映しないものとなる。それが、果たして、「政治活動が誰から、どの企業・団体から資金提供によって賄われ、それがどのように使われているのか」、を国民にありのままに開示されることを目的とする政治資金規正法の趣旨に沿うものであろうか。
政治家との間の立て替え、返済をどこまで収支報告書に記載するかで、いかようにも変わり得る「収入・支出の総額」についての虚偽記入で国会議員を逮捕できるとすれば、検察はどんな政治家も逮捕できることになる。それは、検察が国会以上の強大な政治的権力を持つことになり、民主主義の崩壊を招きかねない。
しかも、さらに問題なのは、石川議員の逮捕事実がそのように不特定なものであることが新聞等ではまったく報じられていないことだ。ほとんどの新聞が、石川議員の逮捕について、見出しでは「4億円不記載」、記事では「4億円の収入と土地代金の支出を収支報告書に記載しなかった」などと、明かに25条1項2 号の「不記載罪」の事実であるように書かれていることだ。
実際には収入総額・支出総額の過少記載が逮捕事実なのに、なぜ4億円の「不記載」が逮捕事実のように報じられるのか。逮捕時の検察側の説明が、司法クラブの記者だけを集めて行われ、会見者である地検幹部の発言を直接見ることも聞くことができないので、まったく不明だ。
今回、石川議員は、なぜ逮捕されたのかということを判断する上で最も重要な逮捕事実すら、国民に正確に伝えられないまま、身柄を拘束され、通常国会への出席を阻まれた。国会会期中であれば、国会議員の逮捕には逮捕許諾請求が必要となる。その場合、逮捕の容疑となった事実が具体的に特定され、明確な理由が示されない限り、許諾請求をすることはあり得なかったはずだ。今回のような容疑事実では許諾請求など到底できないので、国会開会直前に逮捕したのではないかと思わざるをえない。
石川議員の逮捕前から行われている本件に関連する報道の中によると、今回の捜査の対象になっている中心的な事実は、水谷建設が国発注のダムの工事受注の謝礼として5000万円を小沢氏側に渡したと社長が供述していることのようだ。しかし、その事実が今回の陸山会をめぐる疑惑の核心であり、石川議員の逮捕もその事実の解明が目的だというのであれば、それが逮捕事実として明示されるのが当然である。それが行われず、収入総額の過少記載などという不特定の事実で逮捕されたのは、検察当局も、この5000の裏献金についての水谷建設の社長の供述の信用性を疑問視していて、その事実の立件は困難と考えているからではないか。
供述の信用性に関する重要な問題の一つは、同社長の贈賄供述で立件された佐藤前福島県知事の汚職事件の判決の認定だ。知事の弟が経営する会社の所有する土地を時価より1億7000万円高く購入して「1億7000万円」の賄賂を供与したという事実で現職の知事が逮捕・起訴されたが、一審判決で賄賂額は 7000万円に削られ、控訴審判決では「賄賂額はゼロ」という実質的に無罪に近い判断が示された。また、同社長が脱税で実刑判決を受けて受刑中であることからすると、仮釈放欲しさに検察に迎合する動機も十分にある。これらは同社長の供述の信用性に重大な問題があることを示すものであり、その供述を今回の一連の事件の核心的供述として扱うのは極めて危険だ。
もう一つの問題は、通常国会開会の3日前の夜に石川議員らを急遽逮捕する理由があったのか否かである。
「石川議員の自殺の恐れがあった」「任意聴取を拒否した」などと報道されているが、これらはまったく事実とは異なる。石川氏を支援していたフォーラム神保町の緊急シンポジウムでの佐藤優氏の発言によると、石川氏は、1月14日に東京地検の任意聴取を受け、その夜は同じ北海道選出の衆議院議員の松木謙公氏の自宅に宿泊し、翌日も、佐藤氏と電話で連絡をとり、長時間にわたって話していたが、そのときの様子は至って元気であり、自殺の恐れなどまったくなかったとのことだ。また、次の聴取も翌日の午後1時から予定されており、聴取を拒否するつもりもまったくなかった。ところが、15日の夕刻になって、東京地検から午後8時に出頭するよう要請があり、その要請に応じて出頭したところ午後10時に逮捕された。
このような経過から考えて、通常国会開会の直前に石川議員を逮捕する実質的な理由があったとは到底思えない。小沢氏の元秘書の逮捕を世の中に的にアピールし、今回の事件に対する国民の印象を小沢氏や石川議員の犯罪事実が明白であるように印象づけることが目的であったとすると、日本の民主主義を根底から揺るがす暴挙だと言わざるを得ない。
しかし、一方で、検察との全面対決の姿勢を示している小沢一郎氏の側も、土地代金に充てたとされる4億円の資金の出所がマスコミ報道で問題にされ、国民に疑惑をもたれていたのであるから、もっと早い段階で十分な説明を行うべきであった。今回の検察の捜査が、その4億円についての疑惑を追い風に行われていることを考えれば、小沢氏は、まったくやましいことはないというのであれば、この疑惑について国民に対して納得できる説明を行って、異常な事態を一刻も早く収束させるべきだ。
今、日本の議会制民主主義は重大な危機にさらされている。何より重要なことは、「小沢VS検察」というような構図に惑わされることなく、現職の国会議員が通常国会開会の3日前の逮捕という現実に起きた問題について、それがいかなる事実によるもので、どういう理由があったのかについて真相を明らかにすることだ。
検察とマスコミは、すみやかに「正常化」を~郷原信郎弁護士緊急取材3
http://www.iwakamiyasumi.com/column/politics/item_231.html
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「小沢VS検察」ではなく「石川議員逮捕」こそが最大の問題
名城大学教授・弁護士 郷原信郎
2010年1月15日午後10時、北海道11区選出の石川知裕衆議院議員は、東京地検特捜部に逮捕された。第174回通常国会開会の3日前だった。
戦後日本で初めて、国民の選択によって、民主党中心の連立政権が誕生し、政務三役への権限の集中、官僚答弁の禁止など従来の官僚主導から政治主導へ中央省庁が大きく改革された。従来、官僚だけで密室で行われていた予算編成も、事業仕分けという形で、公開の場で市民の参加の下で行われ、1兆8000億円に上る無駄の削減が行われるなど、日本の政治に劇的な変化が起きた。しかし、それによって編成された予算を審議する場である通常国会に、石川議員が北海道11 区の有権者の代表として参加することはできなくなった。
国会議員には憲法によって不逮捕特権が与えられており、会期中は議院の許諾がなければ逮捕されない。会期外で逮捕された場合でも、議院の釈放要求決議あれば釈放される。
それだけに、従来から検察は国会議員の逮捕については慎重な取り扱いをしてきた。政治とカネを巡る問題では1976年のロッキード事件での田中角栄衆議院議員の逮捕以降、10年にわたって国会議員の摘発はなく、久々の国会議員の収賄事件となった1986年の撚糸工連事件、1988年の砂利船汚職事件でも、逮捕は見送られ、任意聴取の後在宅起訴された。そして、8年後の1994年にゼネコン汚職事件で中村喜四郎衆議院議員が逮捕許諾請求の上逮捕されてから、5人の国会議員が逮捕されたが、いずれも、罪名は収賄か、又は裏献金の不記載等の重大・悪質な政治資金規正法違反事件だった。
ところが、今回、石川議員は、前回の選挙で衆議院議員になる前に民主党小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の会計担当者をしていた当時の政治資金の処理手続に関する容疑で、通常国会の開会の3日前という時期に逮捕された。
そのような捜査手法が許されるのか、国会議員の活動に対する検察の介入の是非という観点から徹底的に議論されるのが当然であろう。しかし、マスコミの報道では、「石川議員の逮捕」の是非の問題はほとんど取り上げられず、小沢氏側が「検察と闘っていく」という姿勢をとっていること、鳩山首相を含め民主党がそのような小沢氏を支持していることの是非ばかりが取り上げられ、国民の関心も、小沢氏の聴取がいつ行われるのか、検察は小沢氏を逮捕するのか、などの点に集中している。
今回の容疑事実は、現職の国会議員を国会開会直前に逮捕することを正当化するほどの重大なものなのか。翌日の取調べを待たないで逮捕する事情があったのか、逮捕容疑と逮捕に至る経過を見ると、そこには、重大な問題が浮かび上がってくる。
まず、石川議員の逮捕容疑は、裁判官が発した逮捕状では、平成16年分の政治資金収支報告書の「収入総額」を4億円過少に、「支出総額」を3億5200万円過大に記入した虚偽記入の事実だ。
政治資金規正法では、25条1項2号で政治資金収支報告書に「記載すべき事項を記載しなかった者」、3号で「虚偽の記入をした者」を罰則の対象としている。「収入総額」「支出総額」の欄は、その年の収入と支出を合計したものであり、記載すべき政治献金の収入が記載されていなかったとか、架空の経費が記載されていた事実があれば、それに伴って収入や支出の総額が実際とは違うものになるのは当然だ。収入について過少に報告したということであれば、問題なのは、政治献金等の具体的な収入の記載が行われなかったことや実際より少なく記載されたという問題であって、収入総額の過少というのは、それに伴って当然生じるものに過ぎない。
ところが、今回の石川議員の逮捕の容疑となった被疑事実は、どのような収入・支出が不記載だったのかを特定しないで、全体として収入総額・支出総額が過少だったという政治資金規正法25条1項3号の虚偽記入の事実だけだ。要するに、石川議員が、政治資金収支報告書にどのような事項を記載しなかったのか、どのような不正を行ったのかは、逮捕事実では明らかにされていない。脱税の問題で言えば、どのような収入を隠したのか、どのような支出を架空に計上したのか、というのが犯罪事実の中心のはずなのに、そこが明らかにされないまま、収入の合計金額を少なく申告した、ということだけで逮捕されたようなものだ。
資金管理団体は政治家にとって「政治資金の財布」の役割を果たすものだ。自らの資金管理団体の人件費、事務所費等の経費が不足すれば、代表者の政治家が立て替えるのは当然だ。このような立て替えやその返済も、政治資金規正法上の「収入及び支出」に当たると考え、すべて収支報告書に記載しなければならないとすると、立替えが多い政治家の「収入総額」「支出総額」の記載は、実際の政治活動に係る収支を反映しないものとなる。それが、果たして、「政治活動が誰から、どの企業・団体から資金提供によって賄われ、それがどのように使われているのか」、を国民にありのままに開示されることを目的とする政治資金規正法の趣旨に沿うものであろうか。
政治家との間の立て替え、返済をどこまで収支報告書に記載するかで、いかようにも変わり得る「収入・支出の総額」についての虚偽記入で国会議員を逮捕できるとすれば、検察はどんな政治家も逮捕できることになる。それは、検察が国会以上の強大な政治的権力を持つことになり、民主主義の崩壊を招きかねない。
しかも、さらに問題なのは、石川議員の逮捕事実がそのように不特定なものであることが新聞等ではまったく報じられていないことだ。ほとんどの新聞が、石川議員の逮捕について、見出しでは「4億円不記載」、記事では「4億円の収入と土地代金の支出を収支報告書に記載しなかった」などと、明かに25条1項2 号の「不記載罪」の事実であるように書かれていることだ。
実際には収入総額・支出総額の過少記載が逮捕事実なのに、なぜ4億円の「不記載」が逮捕事実のように報じられるのか。逮捕時の検察側の説明が、司法クラブの記者だけを集めて行われ、会見者である地検幹部の発言を直接見ることも聞くことができないので、まったく不明だ。
今回、石川議員は、なぜ逮捕されたのかということを判断する上で最も重要な逮捕事実すら、国民に正確に伝えられないまま、身柄を拘束され、通常国会への出席を阻まれた。国会会期中であれば、国会議員の逮捕には逮捕許諾請求が必要となる。その場合、逮捕の容疑となった事実が具体的に特定され、明確な理由が示されない限り、許諾請求をすることはあり得なかったはずだ。今回のような容疑事実では許諾請求など到底できないので、国会開会直前に逮捕したのではないかと思わざるをえない。
石川議員の逮捕前から行われている本件に関連する報道の中によると、今回の捜査の対象になっている中心的な事実は、水谷建設が国発注のダムの工事受注の謝礼として5000万円を小沢氏側に渡したと社長が供述していることのようだ。しかし、その事実が今回の陸山会をめぐる疑惑の核心であり、石川議員の逮捕もその事実の解明が目的だというのであれば、それが逮捕事実として明示されるのが当然である。それが行われず、収入総額の過少記載などという不特定の事実で逮捕されたのは、検察当局も、この5000の裏献金についての水谷建設の社長の供述の信用性を疑問視していて、その事実の立件は困難と考えているからではないか。
供述の信用性に関する重要な問題の一つは、同社長の贈賄供述で立件された佐藤前福島県知事の汚職事件の判決の認定だ。知事の弟が経営する会社の所有する土地を時価より1億7000万円高く購入して「1億7000万円」の賄賂を供与したという事実で現職の知事が逮捕・起訴されたが、一審判決で賄賂額は 7000万円に削られ、控訴審判決では「賄賂額はゼロ」という実質的に無罪に近い判断が示された。また、同社長が脱税で実刑判決を受けて受刑中であることからすると、仮釈放欲しさに検察に迎合する動機も十分にある。これらは同社長の供述の信用性に重大な問題があることを示すものであり、その供述を今回の一連の事件の核心的供述として扱うのは極めて危険だ。
もう一つの問題は、通常国会開会の3日前の夜に石川議員らを急遽逮捕する理由があったのか否かである。
「石川議員の自殺の恐れがあった」「任意聴取を拒否した」などと報道されているが、これらはまったく事実とは異なる。石川氏を支援していたフォーラム神保町の緊急シンポジウムでの佐藤優氏の発言によると、石川氏は、1月14日に東京地検の任意聴取を受け、その夜は同じ北海道選出の衆議院議員の松木謙公氏の自宅に宿泊し、翌日も、佐藤氏と電話で連絡をとり、長時間にわたって話していたが、そのときの様子は至って元気であり、自殺の恐れなどまったくなかったとのことだ。また、次の聴取も翌日の午後1時から予定されており、聴取を拒否するつもりもまったくなかった。ところが、15日の夕刻になって、東京地検から午後8時に出頭するよう要請があり、その要請に応じて出頭したところ午後10時に逮捕された。
このような経過から考えて、通常国会開会の直前に石川議員を逮捕する実質的な理由があったとは到底思えない。小沢氏の元秘書の逮捕を世の中に的にアピールし、今回の事件に対する国民の印象を小沢氏や石川議員の犯罪事実が明白であるように印象づけることが目的であったとすると、日本の民主主義を根底から揺るがす暴挙だと言わざるを得ない。
しかし、一方で、検察との全面対決の姿勢を示している小沢一郎氏の側も、土地代金に充てたとされる4億円の資金の出所がマスコミ報道で問題にされ、国民に疑惑をもたれていたのであるから、もっと早い段階で十分な説明を行うべきであった。今回の検察の捜査が、その4億円についての疑惑を追い風に行われていることを考えれば、小沢氏は、まったくやましいことはないというのであれば、この疑惑について国民に対して納得できる説明を行って、異常な事態を一刻も早く収束させるべきだ。
今、日本の議会制民主主義は重大な危機にさらされている。何より重要なことは、「小沢VS検察」というような構図に惑わされることなく、現職の国会議員が通常国会開会の3日前の逮捕という現実に起きた問題について、それがいかなる事実によるもので、どういう理由があったのかについて真相を明らかにすることだ。
検察とマスコミは、すみやかに「正常化」を~郷原信郎弁護士緊急取材3
http://www.iwakamiyasumi.com/column/politics/item_231.html
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