石川氏逮捕という事実の本質2010/02/08

1月15日、国会開会直前の衆議院議員石川氏逮捕の問題は、郷原氏などのごく一部の方々の指摘を別にすれば、民主党幹事長の小沢氏との関係で取り上げられることが多い。そして最近は検察による小沢氏不起訴の決定、また次のような報道を受けて、小沢氏らと検察との取引成立という見方も出てきている。

官邸主導の幹部人事、検察庁・宮内庁は対象外 独立性保つ
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100207ATFS0600S06022010.html

しかし、石川氏逮捕という事実の投げかけている問題は、そんな程度のことなのだろうか。国民主権、民主主義という観点からすると、この問題の本質はまったく別のところにあるのではないだろうか。

思い出して欲しい、昨年の衆議院選挙。18日に公示されて、約2週間の本格的な選挙戦に入り、30日の投票を迎えた。俺ばかりでなく、今回の選挙は、多くの有権者がそれぞれに思いを込めて一票を投じたはずだ。石川氏が立候補した北海道11区の有権者の方々も同じだろう。獲得票数118,655票、有権者数289,067人の54%。居眠り会見という失態はあったにしても自民党重鎮とも言っていい中川さんに見事に勝利した。ところが、石川さんの北海道11区代表としての晴れ舞台も、石川さんまたは民主党に一票を投じた有権者の思いも投票行動も、15日の突然の逮捕によって一挙にパーになった。そしてその間、この間、費やされた税金。

これって、ありか?

石川さんが殺人とかをやって逃亡の恐れがあるならともなく、単なる政治資金収支報告書の不記載あるいは虚偽記載。さらには、それに疑問を呈する意見さえある。一方、事情聴取にも応じて、逃げも隠れもしない石川さんを、こんな容疑で国会開会前に緊急逮捕したのは、地検特捜部の中のわずか数人の連中である。テレビカメラの前に顔を出しもしない、不記載あるいは虚偽記載が具体的にどのような内容であり、どう記載すれば良かったかの説明もしない。佐久間という名前を出して、記者クラブの密室の会見で言ったことといえば、「公判で必要に応じて明らかにする」だけである。

小沢氏は不起訴 陸山会事件、石川議員ら3人起訴
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2010020502000135.html

たかだか微妙な記載の問題で、石川さんにかけていた北海道11区の有権者118,655人の思いは一挙にパーになったのだ。

何度でも問いたい。
これって、あり?

地検特捜部は、いつ開かれるか分からない公判ではなく、今すぐに説明すべきでないの?先ずは自分たちのやったことが適切なことかどうか、国民、特に北海道11区の有権者の判断を仰ぐべきでないの?民主党はもちろん大々的に説明を求めるべきでないの?自分たちの議員に一票を投じた有権者の思いをないがしろに、というよりゼロにされているんだから。

病的サドマゾ閉鎖社会(組織)へようこそ...2010/02/08

ずっと前に読んだ本で、日頃職場で虐げられている人は自分よりも弱い立場の人を同様に虐げる、なんてのがあった。よく言われる、子供の頃に親から暴力を受けた人は、自分が親になったとき自分の子供に暴力を振るう傾向がある、というのと似ている。

今回の検察リークの異様さを書いている元司法担当記者の坂上遼さんという方が次のようなことを書いている。「当時」とあるが、他の記者が書いたものを見ても、今でも事情は同じだろう。いや、この間の報道を見る限り、状況はもっと悪化しているかもしれない。

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 当時の検察担当記者は、平均睡眠時間4時間から6時間、ほぼ年中無休。午前1時半の朝刊締め切り時刻が取材終了の目安という生活を3年も4年も続けていたが、我が身を振り返って「リーク?」してもらった記憶は皆無だ。
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「リーク」批判について司法記者の多くが反論しないのは、言っても解って貰えないだろうという諦めと、そんなことを今更説明しても仕方がないといった醒めた感覚からだと思う。外部の人、取材したことのない人に、いくら検察取材の過酷さ、それは肉体的だけでなく、取材の難しさ、問答の難解さ、時間の取り方(夜討ち朝駆けのタイミング)、さらに取材対象の気むずかしさなど諸々あるのだが、説明のしようがない。

「特捜検察」幻想の終焉(1)
http://opinion.infoseek.co.jp/article/752
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俺がこの部分を読んで驚いたのは、自分が経験したいわゆる司法記者の状況に対して坂上さんがまるで疑問を抱いていないように思われる点だ。「平均睡眠時間4時間から6時間、ほぼ年中無休」が当たり前の日常、そして組織社会。どう見ても、正常な思考能力がある状態で記事を書けるとは思えない。言ってみれば条件反射状態。恐ろしいことに、坂上さんは、その記者生活を異常とは思っていない。

これを踏まえて、少し前に週刊朝日の「検察暴走! 子ども”人質“に女性秘書「恫喝」10時間」という上杉氏の署名入り記事を読んで欲しい。この記事で一躍有名になった東京地検検事、民野健治氏のやったことは、坂上さんが書く司法記者の状況と非常によく似ていないだろうか。病的サドマゾ生活が日常的であるため、自分のやっていることが病的、異常であることの自覚さえできなくなっている。恐らく、民野検事は自分が置かれている病的サドマゾの日常を石川さんの女性秘書に当たり前のように繰り返しただけではないのだろうか。恐らく、ほんのちょっとの疑問さえ抱いていなかった。

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1月26日(火)の昼ごろ、石川事務所に「タミノ」と名乗る男から電話があった。女性秘書に検察庁に来てほしいという。

女性秘書が「今日も押収品の返却ですか?」と確認すると、タミノは「そうです、あと、ちょっと確認したいことがあるので」と返した。

よく聞き取れなかったので、もう一度確認すると、「返却です」と答えた。

女性秘書は、1月15日の石川逮捕以来2度(22日、25日)検察庁から呼び出しを受け「押収品」の返却に応じている。

今回も同様の案件だと信じた女性秘書は、ランチバッグ一つで検察庁に向かった。

霞が関から議員会館のある永田町からは一駅である。前日と同じように、コートも着ずに薄着で出かけた。ランチバッグの中には千円札と小銭、ティッシュとハンカチ、携帯電話だけである。

検察庁に着くと前回までとは違う部屋に案内される。

するとそこには民野健治という検事が待っており、いきなりこういい始めたのだ。

「被疑者として呼んだ。あなたには黙秘権があるので行使することができる。それから~」

事情を把握できずパニックになった女性秘書が、ほかの秘書か弁護士に連絡したい旨を告げると、民野健治はそれを無視して、逆に、携帯電話の電源を切るように命じ、目の前でスイッチをオフにさせたのだ。

それが昼の1時45分。だまし討ちの「監禁」はこうして始まった。

任意の事情聴取は、文字通り「任意」である。

よって、被疑者であろうが、参考人であろうが、当事者の同意が必要なのは言うまでもない。

仮に、拒否しても、その場を立ち去っても問題はない。

拒否も国民の当然の権利である。

ところが今回「聴取」というだまし討ち監禁は、そうした意向を問うこともなくスタートしている。

民野健治は、女性秘書に小沢と石川が共謀していたことを認めるよう迫り続けた。だが、彼女がそんなことを知る由もない。

女性秘書は石川が小沢の秘書をやっているときは、別の民主党議員事務所に勤めていたのだ。

しかも、当時は与野党に分かれており、自由党の石川秘書についてはその存在すら知らなかった。

そんな彼女が、小沢事務所の会計事務のことを知るすべはない。

その旨を正確に述べると、検事は次のような言葉を並べるのだった。

「いいんだよ、何でもいいから認めればいいんだよ」

「早く帰りたいなら、早く認めて楽になれよ」

「何で自分を守ろうとしないの。石川をかばってどうするの」

こうした言葉をさんざん浴びせられたが、知りようもない事柄を語れるはずもない。

そこで黙っていると民野健治はこう言い放った。

「あんた、何も言わないのは愚の骨頂だよ」

取り調べ室では時刻もわからない。もうずいぶん時間も経過したのだろう。

ふと見るとそれまでブラインドから差し込んでいた外の光が暗くなっている。

3歳と5歳の子供が待っている保育園に迎えに行かなければならない。

夫でも誰でもいいから迎えに行かなければ、幼い子供たちも心配するだろう。

取り調べ可視化 これじゃ無理だ。

女性秘書は検事に対して、繰り返しお迎えの許可だけを懇願する。

一時的でもいい、必ず戻ってくる。せめて電話を入れさせてほしいと哀願し続けたのだ。

そして、母親の子供を思う気持ちが昂ったその時、検事の発した言葉が、先の「何言っちゃってんの?そんなに人生、甘くないでしょ?」という台詞だったのだ。

その言葉を聞いて、母親はパニック状態に陥った。

手が震え出し、自然に涙がこぼれてくる。

ついには呼吸が荒くなり、過呼吸状態に陥った。

飲み物を所望する。

ご希望をどうぞ、と言われたので、「お茶をください」と言った。

すると民野健治は事務官を呼び、庁内にあるローソンに買いに行かせた。事務官が戻ってきてお茶を出すと同時に検事はこういったのだ。

「120円、払ってください」

一方、昼間に出かけた女性秘書の帰りがあまりに遅いため、石川事務所のスタッフたちもさすがに心配になってきた。

ちょうどそのころ、検察庁から一本の電話が入った。

「○○さん(女性秘書の名前)からの伝言です。今日は用事があるので事務所には帰らないとのことです」と、男の声で名前も名乗らず、それだけ言うと一方的に切れたという。

日が暮れて数時間がたつ。

子供の迎えの時刻が迫ってからは「せめて主人に電話をさせてほしい」「ダメだ」というやり取りの繰り返しになる。

あの小沢一郎の事情聴取ですら、準備に準備を重ねて弁護士を連れ、自らのホテルの部屋という条件で行われたのだ。しかも4時間半である。

一方、女性秘書の「監禁」時間はすでにこの時点で5時間を超えている。

だんだん思考能力も低下してきた、と、のちに弁護士にも語っている。

この母親が何百回、同じ「哀願」を繰り返したころだろう。

ようやく検事が「じゃあ、旦那にだけは電話していい」と認めた。

検事の目の前で携帯のスイッチをオンにし、画面に夫の電話番号を表示し、それを見せながら発信ボタンを押した。

子供の迎えだけを頼んだ。

それから次に弁護士への通話をお願いし、しばらくして同じように許可された。

弁護士が検事と「聴取」の中断を交渉し、午後10時45分、事務所を出てから約10時間ぶりに女性秘書は「監禁」から開放されたのだった。

結局、「押収品」は一つも返してもらえなかった。
つまり、東京地検特捜部は、最初からこの若い母親をだまして「監禁」することが目的だったのだ!

出典:検察暴走! 子ども”人質“に女性秘書「恫喝」10時間
週刊朝日2月12日号 上杉隆署名記事部分
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関連: 検察の任意取り調べを報じた上杉さんの歴史的ビデオ
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2010/02/03/4854333