米国バブルを振り返る(企業収益と生産性)2009/10/10

少し前、このブログでは、バブルが崩壊するかもしれないことがほぼ明らかになった時期の2008年1月のビジネスウィークの記事「How Real Was the Prosperity?(反映はどの程度本物だったのか?)」を「個人消費と借金」に絞って紹介した。

米国バブルを振り返る(個人消費と借金)
http://ootw-corner.asablo.jp/blog/2009/10/06/4617340

そこで明らかになったことは、2001年以降、米国の個人消費のうちGDP成長率を上回る過剰分は約3兆ドル(約270兆円、日本の国家予算より多い)で、これがほぼ借金によって賄われていたということだ。

では、「企業収益と生産性」はどうだったのだろうか。ここでも、ビジネスウィークは重要な事実を指摘している。

「近年は、企業収益も好調だった。政府統計によれば、過去10年の企業収益は、90年代初期の最低の6.5%から平均8%に上昇した。このおかげで株価は押し上げられた。

しかし、これには不幸な真実がある。利益が上昇したのは、1つの分野、金融分野だけである。金融機関は、個人貸付ブーム。新金融商品の急増、低金利の恩恵を受けた。これに対し、金融以外の企業の収益は平均でGDPの約5.3%、1980年代中頃以降ほぼ変わらない。リストラクチャリングが流行った時期を終えても、収益率が上がる兆しはほとんどなかった。

現在の問題は、企業利益の上昇分のどのぐらいが維持可能で、借金ブームが終わった後、どのぐらいが雲散霧消するかである。銀行がどのぐらいヒドイ打撃を受けるのか誰にも分からない。」(引用)

銀行が受ける打撃がどれほど深刻であるかは、すでにハッキリ出ている。10月5日現在、ロイターの記事によれば、銀行倒産件数は今年だけでも100件近く。

米国で新たに3行が倒産、年初来で98件に=FDIC
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK847592420091005

では、その間、米国の生産性、生産力は伸びたのだろうか。

「生産性は最も厄介な分野だ。米国経済の健全性の最も明瞭な兆候は、生産性、すなわち、単位労働時間当たりの生産量だ。生産性の向上が早いほど、インフレを伴わないで経済は急成長し、生活水準は向上する。労働統計局によれば、過去10年、生産性は年率2.6%のペースで伸びた。その前の10年は年率1.6%だった。この生産力の伸び分1%は、米国経済の年間生産量が約1兆ドル増えたことを意味する。しかし、生産量が高まったにもかかわらず、米国消費者は3兆円余計に借金を背負った。これは、給料が上がって、その上昇分以上にオカネを使う行為に似ている。

生産力の伸びの一部もまた錯覚かもしれない。借金過剰で経済が人工的に押し上げられると、見かけ上、生産量の増加、生産性の向上として現れる。これは、過去の平均的な借金水準に戻ると、生産性の実際の伸びは、考えていた以上に小さくなることを意味している。」(引用)

2007年までの米国の経済成長は、「個人消費と借金」と同じく「企業収益と生産性」の分野もまた借金によって生まれたバブルであったことが分かる。記事にある通り、企業収益が上昇したのは金融分野だけであり、バブル前より生産性は伸びたにもかかわらず、米国消費者は約3兆円も余計に借金を背負っている(つまり、借金による見かけ上の生産力向上)。これは、日本の1990年までの金余りバブルと明らかに異なる。

米国の過去と比較しても異常な、そんな借金がなぜ可能であったのか。これから日本がすべきこととすべきでないことを知る上で、米国経済や社会の仕組みを知ることは非常に大切と思える。

オバマさんのノーベル平和賞受賞と米国社会2009/10/10

少し前の原油取引通貨変更の秘密会議のニュースといい、賛成反対の二者択一を求められば、意見が真っ二つに分かれると思うニュースがどうも続いているような。俺は賛成反対の他に「どっちでもいい」とかの選択肢があると助かる。興味はあるが、賛成反対でもない「どっちでもいい」の部類だから。

賛成の観点からすれば、何だかんだと言ってプラハ演説とかは画期的だった。日本共産党などは真に受けて志井委員長自ら連帯の手紙などを送ってしまった。反対の観点からすれば戦争を現にやっている、あるいはイスラエルの核兵器を見逃している国の大統領が何で平和賞だということになる。俺から見ると、どちらももっともな意見だ。確かに演説はいいが、現実には何も達成していないではないかという意見もある。

俺がオバマ大統領に対する興味として一点を挙げれば、すでに99.99%あり得ない「アメリカン・ドリーム」をはじめとして、未だに米国民が抱いている自国に対する幻想(嘘)を彼がどのように演じ続けるか(あるいは演じさせられるか)、だ。

大統領予備選挙でヒラリー・クリントンには勝つものの、大統領選挙本戦でマケイン(白人)に勝つことはない、というのが大方の見方だった。しかし、現実にはオバマは勝った。もちろん米国金融資本からの献金はでかいが、とはいえ、大統領就任式を見たら、オバマ人気が圧倒的だったことは誰もが認めるだろう。つまり、米国民は米国社会の最後の幻想にかけたのだ(もちろん、米国民の多くは「アメリカン・ドリーム」がまだ生きていると思っていて、幻想とは思っていない)。外から見ていると、オバマさんは身をもって「米国の夢」(米国社会の嘘)を体現し、米国民は米国はやっぱりスゴイのだという「米国の夢」に酔いしれた。

これは、オバマさん自身にとっても、また米国社会にとっても非常に深刻な問題を引き起こす種になるのではないだろうか。なぜなら、オバマさんが体現したこと、米国民がオバマさんにかけたことは幻想、虚構であることが分かっており、自己分裂、社会分裂を起こさざるを得ないと思われるからだ。単に、元々あった国内対立を先送り、あるいは隠してしまっただけなのだ。この対立は深刻化するだろう。アフガン問題や医療改革問題など、その兆候はすでに現れている。

オバマを選んだ5人のノーベル平和賞委員2009/10/10

ノーベル賞は部門によって委員会が異なる。ノーベル平和賞を決定するのは、Norwegian Nobel Committeeで、選出される5人の委員の構成はノルウェイ議会の構成を反映している。ほぼ元議員だから、どうみても政治色は強く、CBSニュースによれば、左寄りの元労働党系の方もいれば、右翼保守系の方もいる。委員長はノルウェイ首相と外相を務めたこともあるトールビョルン・ヤーグラン。この方は先月9月29日に欧州評議会(Council of Europe)事務局長に選ばれたばかりだ。

ノルウェイはなかなかやり手の国にみえる。ブッシュのイラク戦争のときにはわずかな兵士数(150人程度)だが有志軍として加わり、確か2004年からはさっさと撤退を始めている。さらにクルド自治区でだが、英米石油企業が契約しないうちから石油契約を決めたのがノルウェイの会社だった。

現在ヨーロッパが一番懸念しているのが、米国またはイスラエルによるイラン攻撃であることを考えると、なかなか意味深なオバマのノーベル平和賞ではある。

5 Norwegians Decide Peace Prize Winner
Monumental Decision On Selecting Peace Prize Winners Falls To 5 Norwegians
http://www.cbsnews.com/stories/2009/10/09/ap/europe/main5375349.shtml?tag=latest

(AP) There are four women and one man on the Norwegian Nobel Committee. Members are elected by Norwegian lawmakers so the panel reflects the political makeup of Parliament. The five members are:

_ THORBJOERN JAGLAND. 59. Chairman. Has served as lawmaker for the left-leaning Labor Party for 16 years. Was Norway's prime minister from 1996-1997 and foreign minister from 2000-2001. Member of the prize committee since 2009. Elected secretary-general of the Council of Europe on Sept. 29.

Dismissed criticism that giving the prize to Obama was premature. "Too early? Well, I'd say then that it could be too late to respond three years from now. It is now that we have the opportunity to respond," he told AP.

_ KACI KULLMAN FIVE. 58. Deputy chair. Served as lawmaker for the right-wing Conservative Party 1981-97 and chaired the party 1991-94. Briefly served as Norwegian trade minister. Held a seat on board of Norwegian oil company Statoil until 2007. Member of the prize committee since 2003.

Told AP the committee covers "the political spectrum in Norway" but doesn't view its selections as political. "We have one duty and that is to do what Alfred Nobel put in his will."

_ SISSEL MARIE ROENBECK. 59. Labor Party lawmaker until 1993. Has held Cabinet posts as minister for administration and consumer affairs, environment and transport and communications. Member of the prize committee since 1994.

_ INGER-MARIE YTTERHORN. 68. Senior political adviser to the parliamentary group of the right-wing populist Progress Party. Lawmaker from 1989-93. Member of the prize committee since 2000. Told AP the prize could be seen as praising Obama's reversal of Bush administration policies: "I guess you could read it like that."

_ AAGOT VALLE. 64. Lawmaker for the Socialist Left party. Joined the peace prize committee in 2009. Expects Bush supporters to criticize decision to award Obama: "Those who were in support of Bush in his belief in war solving problems, on rearmament, and that nuclear weapons play an important role ... probably won't be happy."